2/3
前へ
/18ページ
次へ
「で、ぼくに何の用だよ」  不機嫌を語気に込めて訊ねる。 「貴重な睡眠時間をチョップで邪魔してくるってことは、これから地球破滅する級の天災が訪れるんだな?」 「んにゃ、地球が破滅? そんなことあるわけないじゃん。にっしーの名前が全校、全世界に轟くレベルであり得ないことだよ」 「ぼくの思考、筒抜けじゃん!」 「にっしーが私と隣の席になったとき、自虐していた台詞を参考にしただけだよ」 「なんで一年前のことを覚えているんだよ」  一年生の中期、席替えで東屋と隣の席になったことがあり、彼女はモットーに従いぼくに接触してきたさいに、自らの知名度を虐げるようなことを吐露したのだった。 「にっしーこそ、どうして一年前だって覚えているのさ」 「そ、それは……」  問い返されて、戸惑うぼく。  顔色に出ているか分からないが、顔の表面温度が上がっているのを感じる。東屋の返答を待ちわびる視線も温度上昇を手伝っている。  なんとか話をそらさないと。  この質問は都合が悪すぎる。 「そ、それよりもぼくの呼称について文句があるんだけど」 「なになに?」  簡単にそれた。普通ならうやむやにしないで、とか、誤魔化さないで、とか、そうやってぼくから答を引き出そうとするのに。  友達ゆえに引くところは引いたのか、それほど興味がなかったのか、あるいは馬鹿だからあっさりと方向転換に従ったのか。二択目ならへこむぞ。 「おそらく、にっしーはぼくの名字の『西』からとっていると思うんだけど、その『西』、ニシじゃないぞ」 「えっ?」 「『西塔』と書いて、サイトウと読むんだよ」 「カルチャーショック!!」  東屋は頬に両手を当て、口をあんぐりさせた。ムンクの『叫び』みたいだ。  ぼくと東屋、過ごしている文化圏は同じはずなんだけどな……。  枕に『カルチャー』をつけることで、『ショック』がより深い意味になるとでも思っているんだろうか。 「まあ、でもにっしーでいいじゃん」 『叫び』のポーズは数瞬で解け、そう言ってけろっと元の表情に戻った。 「さいくん、よりはいいでしょう?」 「まあな」  さいくんだと、まるでぼくが東屋の奧さんみたいになるしな。  そのニックネームは気が引ける。  東屋が細君に、と妄想を膨らませると話をそらした意味がなくなるので、淡々と閑話休題をした。 「結局、何の用なんだよ」 「『変な話』を持ってきたから、この謎を是非にっしーに解いてもらいたくてね」 「変な――話」  東屋杏はご覧の通り変な奴だ。だからかどうか、因果関係は不明だけど、東屋はよくおかしな事象に見舞われる。  程度は、少し考えれば分かることから無理難題まで幅広い。ぼくが東屋と関わるようになったのは、『変な話』に巻き込まれたからだ。  以来、彼女はこうしてぼくを頼ってやってくる。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加