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こないだにしたってそうだ。
そのとき東屋がぼくに持ちかけた『変な話』は、友人の下着が盗難されたというものだ。
この学校では女子がプール授業、男子が体育館授業という期間が夏にある(むろん、男女が逆のときもある。時代錯誤も甚だしい)。
プールに併設された更衣室は施錠がしっかりとなされていたにもかかわらず、授業終了後、ロッカーから下着が消えていた――という話だ。
まっさきにプール授業に居合わせた女性教育実習生が疑われる流れになったが、それは犯人の誘導であると分かると、あとは芋蔓式に犯人とトリックが明らかになった。
それを解き明かしたのは、偶然にもぼくなのだけれど、そんな感じで彼女は珍妙な事件に遭遇しやすく、しかもそれをぼくにご丁寧に届けてくるのである。
「どうして毎度ぼくに頼るかねえ」
ぼくは背凭れに体重を預け、気怠げな態度をとる。
「それはきみがいつも楽しそうに解くからだよ」
「そんなことはない。事件なんて、ないに越したことはないんだから」
「ないに越したことはない? それって肯定しているの? 否定しているの?」
「否定しているんだよ」
これくらいの文章でゲシュタルト崩壊を起こしているんじゃねえ。
「でも、なんだかんだ言って、結局毎回解いてくれるよね。どうして?」
「…………」
「あっ、まただんまり。それもよくないよ。私とにっしーは友達なんだから、隠し事は駄目なんだよ」
東屋はこうなってしまうとシュールストレミングの異臭のようにしつこい。そのしつこさを振り切るくらいの言葉の風圧で彼女を蹴散らせばいいのだろうけれど、彼女に対してそんな真似は、ぼくにはできなかった。
「……ばれたか」
ぼくは観念したように両手をあげる。
不本意だけれど、東屋の当てずっぽうな憶測が正解した振りをしておこう。そうです、ぼくは謎に興味津々なのですよ。決して東屋に囃し立てられて付き合っているわけじゃあありません。あくまでも自主的に取り組んでいるだけです。
「ばれちまったもんはしょうがない。ぼくは謎解きが好きだよ。知的好奇心がくすぐられて、その快楽に抗えない。将来は探偵になりたいと思っているんだ」
現実の探偵が館に閉じ込められて謎を解き明かしていくなんて、ほとんどないはずだけど、乗りかかった船は勢いよく漕がないと。
ていうか、謎解きをしたいだけなら別に探偵になる必要はない。
クイズ番組を視聴すれば事足りる。
だけど、彼女の持ち出す謎は――一線を画す。
一線を画すからこそ、面倒くさい。
「よし。そこまで言ってくれるなら、私も話し甲斐があるってもんよ。『変な話』、始めさせてもらうよ。ご静聴よろしくね」
題名は『本と兄』。
そう前置きして、謎を語り始めた。
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