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「私の家族は私を含めて四人家族なの。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、私の計四人。おじいちゃんやおばあちゃんは一緒に住んでいないから一世帯。  犬か猫を飼いたいんだけれど、お父さんが犬アレルギーでお母さんが猫アレルギーだから両方飼えないんだよね。将来飼いたいって思うよ。まあ、アレルギー持ちの両親から生まれた私もいずれかのアレルギーを持っているかもだけどね。野望は必ず果たす。世界を征服せんとする悪の秘密結社のようにね。……えっ? 正義は必ず勝つ? 悪は必ず滅びるって? そんなの戦ってみなくちゃ分からないじゃん。正義にも悪にも勝敗は等しく与えられるんだからさ。  今回の主人公は私のお兄ちゃん。東屋勉。ベンじゃないよ、そんな外国人みたい名前じゃない。ツトムだよ。アズマヤツトム。名は体を表すのテンプレートで読書や勉強好きなんだ。一方で倹約家の側面があってね、大学の受験シーズンにはテキストを買わずに教科書や先生にもらったプリント、学校の学習室に蔵書されていた参考書で勉強していたんだよ。それで難関校に合格したんだから、妹として鼻が高いよ。  さて、出来事の始まりは先週の土曜日。今日は月曜日だから二日前だね。お父さんは会社で会議に、お母さんは商店街で買い物に行っていた午前だった。私はいつものようにリビングでぶらぶらしていたの。ブラのままぶらぶらとね……って大丈夫? にっしー。随分と目が泳いでいるけれど。男子がパンツ一丁で過ごすことがあるように、女子だって服を脱ぎ捨てて過ごすときもあるんだよ。ただ、家族にははしたないと言われっぱなしだけどね。  で、午前十一時。開館時間から図書館に通っていたおにいちゃんが帰ってきたの。ソファで寝転がる下着姿の私に一喝し、図書館バッグをそんな私の足下に置きつつキッチンまで向かった。その隙に図書館バッグの中身を確かめたの。何となく気になったからさ。私も時折おにいちゃんが借りてきた本を貸してもらって読んだりするからさ。こう見えて、私は読書家なんだよ。私も図書館で本を借りてくることもあるし、今度おすすめの本を紹介してあげる。ジャンルはたしか『びーえる』だったかな。図書館で読んでドキドキして面白かったよ。……ああ、違う違う、『びーえる』は本の規格じゃないよ。A4とかB5とかじゃないって。こういうときにボケを挟むなんて珍しいね。  お兄ちゃんは本を読むときにコーヒーも嗜むの。お兄ちゃん、結構外見も気にするから、コーヒーを飲みながら読書する自分に酔いたいんだよね。もちろん、読書もしっかりと楽しむけれどね。  私が図書館バッグを覗いているうちにコーヒーの香りがキッチンから漂ってきて、嗅いでいるうちに私も飲みたくなったから、お兄ちゃんに私の分もつくるようお願いしたの。コーヒーが入ったマグカップをソファの前のテーブルに置いて、引換券として図書館バッグを渡してあげて、そしてお兄ちゃんは自前のマグカップと図書館バッグとともにリビングを出、二階に上がっていったの。  ここからだよ、にっしー。ここからが本番だよ。ここからが『変な話』。  それから三十分後、お兄ちゃんが慌てた素振りで二階から降りてきたの。驚いたものだから、私、録画していた番組を観ていたけれど一度止めて、お兄ちゃんにどうしたのか訊ねようとしたんだよ。だけど、リビングには来ないでそのまま玄関に行ったっぽかったからそのときは訊けなかったんだ。……ああ、さすがにこの頃には服は着ていたよ。寒くなったからね。ホットコーヒーでも冷えるものは冷えるよ。  そして、更に三十分経ったくらいからかな。そのときには既にお母さんも帰ってきていてキッチンで昼食の準備をしていたんだ。やがて、お兄ちゃんも帰ってきて、片手には本を持っていたんだ。その本は図書館バッグに入っていた一冊だったけれど、どうやら本屋で買ってきたみたいなんだよね。私は今度こそ『何かあったの』と訊いたんだ。だけどお兄ちゃん、澄まし顔で『何でもない』ってさ。三十分前には焦燥しきっていたのに、何でもないことはないはずなんだ。  それで、そのときのお兄ちゃんに一体何が起こったのか、にっしーにはその謎を解いて欲しいの」
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