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「静香、保険に入ったあと、大学構内を歩いていると上から鉢植えが落ちてきた。直撃したらたぶん死んでた。
あれ、きみの仕業だよね」
「知ってたの?」
「駅のホームの最前列にいた時、電車がホームに入ってくるタイミングで、見知らぬ男に後ろから押されるところだった。靴紐が緩んでいることに気づいた僕は身をかがめて助かった。男は転倒して逃げていった。
あれも、きみだよね」
「あいつは使えないやつだった」
悔しそうな顔をする静香。
さっき、信号待ちをしていた静香を見て、そのシーンを思い出した。
幽霊になってから記憶が曖昧だったが、思い出した。瑠奈は言った。
もう逃げられないと。
そうだ、殺るか殺られるかだった。たしかに瑠奈が言った通り、逃げることはできそうになかった。
「義樹、田舎から出てきたあんたなら簡単だと思ったんだけどな」
自分の手を見ると、手先から自分の身体が消えていくのが見えた。
ああ、僕の本当の願いが叶ったんだ。もう思い残すことはない……。先に僕が仕掛けるはずだった。
静香を殺して僕は生き残るはずだったのに。
でも、僕の願い……お母さんにプレゼントができたから満足だ。
「静香、そういえば、運転手さんには悪いことをしたよ。よく考えず、関係のない人を巻き込んじゃって……。急な計画変更で、迷惑をかけちゃった。
これは全部、先に仕掛けてきた君のせいだからね」
その言葉を最後に、僕は、静香を見つめながら、消滅した。
消滅する直前に、静香の独り言が聞こえた。
「まあ、よかったかな。これで、瑠奈から人殺しを命令されることもなくなったし……」
瑠奈が忠告してきたのは、僕への親切ではなく、ハードルを上げて楽しむため? 黒幕が瑠奈だったとは……
了
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