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僕は風呂とかシャワーとか好きじゃない。いや、めんどくさくて嫌いなのだ。だから、昨日も風呂に入っていない。つまり、死んだ時と同じ服を着ている。服までセットで幽霊なのだ。
もし、昨日、風呂に入っていて、着替えていたら、きっと、バックパックを背負った服とパンツが歩いているように見えただろう。それはそれで、透明人間みたいで気持ちが悪い。
バックパックだけが浮いているのと、透明人間みたいに服とバッグが移動するのとどっちが怖かったのだろうかなどと考えながらシャワーを浴びる。やはり、お湯は僕の体を通過して床に当たって初めて跳ねる。
シャワーの蛇口をひねることができたのはなぜかわからない。シャワーが身体を通過するのだから、シャワーのつまみを持とうとしても指がつまみの中に入り込んで触れないと思うのだが、そんなことはない。
僕は幽霊だけど、足がある。足が地面にめり込まず、普通に歩けるのと同じ原理か。
脱衣場まで出て、さて、どんなかっこうで静香のところに行けばいいのだろうかと考える。静香の真似をして、腰にフェイスタオルを巻いていくのはマヌケだと思う。やはり、着ていた服を着よう。
この服、何日めだっけ? まあ、いい。実体がないのだから臭わないだろう。
リビングに入ると、静香はいなかった。
「こっち、こっち」
少しドアが開いたままの寝室から声がする。
僕は、生唾を飲み込みゆっくりドアを開ける。
ベッドの脇に何も身につけていない静香が僕を見つめて、両手を広げて立っていた。
「さあ、来て」
部屋の電気に明るく照らされて、静香はとても綺麗だった。
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