降り積もれ、雪

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八田(はだ)はさ、年末どうすんの? 実家帰んの?」  東堂さんがゲームのコントローラーを握りながらそう僕に尋ねてきた。  僕はテレビの方を向いたまま、横目で彼の表情を確認する。当然のことながら、東堂先輩は僕に対する意識などない。  ただの会社の後輩だとしか思っていないはずだ。  それでもいい。こうして、僕の家に先輩がいるという事実だけで僕は幸せだった。 「明日が29日なんで、30日に帰る予定ですね」 「そっか。俺どうしようかな。帰ってもさ、親とかうるせぇだけじゃん」  東堂さんは僕よりも八つ歳が上だ。  そろそろ結婚も意識するような年齢なのかもしれない。  彼女とは半年程前に別れたと聞いている。  本当に米粒ぐらいのチャンスは僕にもあるような気がした。  仕事納め。会社のみんなは忘年会だ、と言って繁華街へと消えていった。もちろん、僕もその会に誘われていたのだが、あまりお酒が強くない僕は逃げるようにその場を離れて一人、駅へと歩いていた。 「よっ」  後ろから驚かすように僕に声をかけてきた東堂さん。  僕の大げさなリアクションに屈託のない笑みを浮かべるその姿は、いつもの東堂さんだった。 「なんかさ、どうせいつものメンバーじゃん? 飲みに行ったって同じ話の繰り返しでさ、正直嫌気が差してたんだよな。でも、家帰ったって結局一人じゃん? つまんねーな、って思ってたらお前が歩いてたからさ、これはこれで面白いかもなって」  そう言って東堂さんは僕の家へ来ることになった。  先輩には普段からお世話になっていて、本当に色々と良くしてくれている。  仕事でミスをして凹んでいたとき、優しく慰めてくれたのが東堂さんだ。 「気にすんなよ」そう言って缶コーヒーを奢ってくれた彼の姿に、僕は初めての感情を抱いたのかもしれない。
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