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僕は促されるように彼の前に座った。
さっきまであんなに眺めていたはずの先輩の顔を、今は見ることができない。
雪だるまのマグカップに視線を送りながら、辛うじて出た言葉。
「……よかった、ですね。東堂さんだって、より戻したかったんでしょ?」
「え? いや、まあ、うん。わかんねーんだよ。まだ好きなのかな。あーマジなんかムカつくな。俺、あいつに振り回されてるのにさ、心の底から腹が立ってねーんだよな。むしろ、早く来てくれってさえ思ってるかも。あ、だから八田、悪い。今日泊まらせて欲しいって言ったのに」
「いやいや、ほんとに、そんな、大丈夫です、から」
「お前、どうした? なんか、さっきから全然こっち見ないけど。そんなに俺に泊まって欲しかったとか? ははは」
何も気づいていなくてよかった。
東堂さんは東堂さんのままだ。
僕の憧れの人。いつまでもそうあり続けてほしいと思う。
「ちょっと、お腹減ってきました。カレーでも食べようかな」
こたつから立ち上がり、部屋を出る。
冷蔵庫には、コンビニで買ったカレーライス。それをレンジに入れてスイッチを押した。
「お前、さっきあんまり腹減ってねーって言ってなかったか?」
先輩のそんなツッコミを聞きながらリビングに戻る。僕は知っている。自分の部屋のことを。暖房とこたつ、テレビにゲーム、加湿器。これがギリギリ。
ブーンという音が聞こえ、その数秒後、部屋は暗闇に包まれた。
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