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「え、停電?」
何も見えない中なら、涙を流したって構わない。
「八田? レンジ使ったからか? ブレーカーブレーカー」
先輩の慌てた声が聞こえる。
僕は声を押し殺して泣いた。
暗くて少しずつ寒くなる部屋。その中で僕の涙が膝の上に落ちる。暖かい雫が一つ、二つ、三つ。
絶対に声は出せない。泣いているところを見られるわけにはいかない。
「八田? 大丈夫か? ちょっと待てよ、スマホで明かり照らすから。あれ、どこだ? 何も見えねー」
こたつの前で泣いている僕の腕に、東堂さんの指が触れた。
「八田?」
彼の温かい手が僕の右腕を掴んだ。
僕はその手を握り返した。
「おい、何だよ、それ俺の手。スマホ探せって」
すぐに離れた感触は、また別の空間を彷徨っているのだろう。
しばらくしてスマホを見つけた東堂さんは、「あったあった」と言ってライトをつけた。
一気に部屋に光が戻る。
「え、お前泣いてる? もしかして、暗所恐怖症?」
「……はい」
「そうなんだ、じゃあここにいろ。俺がブレーカー上げてきてやるから。奥だろ?」
先輩は廊下の方へ進み、ブレーカーを探し当ててそのスイッチを上げた。
部屋が明るくなって、眩しさで目が痛む。
必死に涙を袖で拭った。
「泣くことないじゃん。可愛いやつだな。ほら」
ティッシュを渡されて僕はそれを目元へ当てた。
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