降り積もるな、雪

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「ちょっと、トイレ貸して」 「あ、はい。どうぞ」  藤堂さんがこたつから立ち上がり、部屋を出て行く。ゲームの画面はキャラクターが停止したままだ。  マグカップのお茶を飲みながらテーブルの上にある散乱したお菓子の袋をかき分けて、スマホに手を伸ばした。特に誰からの連絡もなく、年末の物悲しさを勝手に感じていた。  携帯を触りながらふと、なんとなく窓の方に目を向けたとき、カーテンが窓に引っかかっているのを見つけた。先程、先輩が窓の外を見たときに引っかかったのだろう。  僕はこたつから出て、立ち上がろうとした。すると、トイレを流す音が聞こえて、藤堂さんがリビングに入ってきた。 「ああ、悪い悪い。俺直すわ」  先輩は僕を制すようにしてカーテンを直した後、こたつへと戻った。 「……また強くなってるわ。クソッ……積もるなよ、雪」 「結構積もるんじゃないすか。ニュースでも、明日の朝は五センチぐらい積もるから気をつけてくださいって言ってましたし。明日、雪だるまでも作ります?」  僕はそんな冗談を言いながら藤堂さんを見た。別に笑かそうとか、そんな大げさなことじゃない。なんとなく、話の流れで出たしょうもないことの一つだった。  しかし、藤堂さんは僕のその言葉を聞いてなのか、急に顔が青ざめた。  下を向いたまま、なぜか小刻みに震えている。 「え、藤堂さん? どうしたん、すか?」 「……羽田、ごめん」 「ごめん? え? なにがすか?」  先輩は両手で持っていたコントローラーを見つめながら、僕に謝り続けている。意味がわからず、僕は藤堂さんが何かを言うまで待ち続けるしかできなかった。 「……一週間前、今年初めて、雪が降った」 「ああ、はい、そうすね」  藤堂さんは何かを思い出すように、ゆっくりと語り始める。一体、急にどうしちゃったのか。先程まではあんなに楽しそうにしていたのに。 「その、雪が降った夜、俺は自宅で、眠っていたんだ。当然、一人で」 「はい」 「……眠っていたんだけど、誰かの声で起きたんだよ」 「声?」 「笑い声。女の人の笑い声が外から聞こえてさ……時計を見たら午前二時過ぎで。こんな時間になんだよって思いながら……ベッドから起きて窓の方へ行ったんだ」  藤堂さんは話に間を空けながらゆっくりと語る。その話し方がやけに感情がこもっているように思えて、僕は段々と怖くなっていった。
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