降り積もるな、雪

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「……そしたら、家の前の通りに女性が一人、しゃがみ込んでたんだ……。雪がしんしんと降り続く中、一人でだぜ? そんな時間に人なんて普通いるわけないじゃん。凍えるように寒い中で。俺の部屋は二階だからさ、その後ろ姿がはっきり見えたんだ」  僕は藤堂さんの青ざめた顔を見ながら、頭の中でその情景を思い描いていた。  深夜に一人、笑いながら家の前の通りでしゃがみ込む女性。恐怖でしかない。 「俺がカーテンの隙間からその女を見下ろしてたら、そいつがゆっくりと立ち上がって……振り返ったんだ」 「え、だ、誰だったんですか?」 「……祐季」 「は? いやいや、だって、え、祐季さんって、半年前に自殺したんでしょ?」 「俺だってそう思ったよ。なんでなんで? って頭ん中パニックになってさ。怖くなって慌ててベッドに戻って。見間違いだ見間違いだ、って何度も言い聞かせてさ。それでも怖かったから布団を頭からかぶって」  こたつに入っているのに、全身の毛が逆立つようだった。思わず右手で左の二の腕を何度も擦った。 「え、それで、どうなったんですか?」 「……『ふふふ』っていう笑い声が聞こえてさ。外からじゃなくて、明らかに部屋の中から」 「部屋の、中?」 「もう訳わかんなくて、耳を塞いで目をつぶって。恐怖で体が震えながら、何度も心の中で『帰ってくれ、頼むから帰ってくれ』って願って」  その時の先輩の恐怖心が僕に伝わってくる。そんな中でも、この話のどこが『ごめん』に繋がってくるのか疑問だった。 「そしたら……急に足に冷たい何かが触れたんだ。氷みたいに冷たい何かが」 「何か、って?」 「手。外で雪を触ってた祐季の手が、俺の足を掴んで」  鳥肌が止まらなくて、僕は何度も肌を擦った。 「その後、段々と上にあがってきた。『戻ってきたよ。一緒に雪あそびしよ』って言いながら。もう恐ろしくてさ、声も出せないし、動くことすらできなくて。『無理だから、俺には無理だから、帰ってくれ頼む』って頭ん中で叫び続けるしかできなくて……」 「……それで?」 「祐季が、言ったんだ。『じゃあ、他に誰か遊べる人教えてよ』って」 「……え、どういう、こと? 他って?」 「……ごめん、羽田。咄嗟に頭の中に出てきたのが、お前しかいなくて」 「いやいやいや、え? 僕? 僕、関係ないじゃないすか」 「ほんとに、ごめん」  先輩が俯いたまま謝り続けている。 「いや、冗談でしょ? じゃあ、この部屋に来るってことですか? いやいや、やめてくださいよ。冗談きついわ」 「……さっき、窓の外を見たとき、前の通りにしゃがみ込んでた」 「は? は? え、誰、が?」 「……祐季」 「いやいや、嘘でしょ? ほんとに? いや嘘でしょ」  小刻みに震える先輩を見て、彼が嘘をついているようには思えなかった。  カーテンを見る。でも、窓の外を確認する勇気なんてなかった。 「……マジで。なんなんすか」 「ごめん、全部俺のせいだ……。何の力にもなれなかったとか、嘘なんだ。俺は……あいつから逃げたんだ」
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