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「羽田さあ、年末どうすんの? 実家帰んの?」
向かいに座る藤堂先輩がこたつに入りながら、ゲームのコントローラーを握ったまま僕にそう問いかけてきた。画面の中では、サイコロが転がり、電車がマス目を進んでいく。
「そうですね、明日が29だから、30日に帰ろうかなと思ってますよ。藤堂さんは?」
「俺? どうしよっかなぁって。帰ってもさ、親とか親戚がうるせぇだけだしな」
「まあ、そうすよね」
仕事納め。会社の何人かは仕事終わりに飲みに行ったらしい。僕と藤堂さんも軽く誘われたが、当然のように断った。上司の説教を聞くのは仕事中だけで勘弁してほしい。
駅へ向かう途中、隣を歩いていた藤堂さんが、「お前ん家行ってもいい?」と聞いてきた。よくあることだ。藤堂さんとは八つも歳が離れてるのに、なぜか気が合った。向上心の無さとか、仕事に対する意識の低さとか、普段絶対に見せない部分を見抜かれてから僕らは意気投合したのだ。
一週間前に降り積もった雪、今日も夕方から降り始めた。今年は例年に比べて気温が低い。そのせいか、雪が多い。
明日は休みだし、どこにも出かける予定はないから別にいいんだけど。
「わっ、雪……強くなってきたな」
藤堂さんが背後にあるカーテンを少し開けてそう言った。黒い空に、粒になった雪が舞っている。明日は積もるのだろうか。
一人暮らしのワンルームマンション。五階建ての三階の角部屋。駅から十分。コンビニまで五分。夜は静かだし、それなりに気に入っている。
お菓子と酒を買い込んで、ゲームをしながら飲むのが僕らの過ごし方。二人とも酔ってもあんまり変わらないから変に陽気になることもない。
「今日、泊まっていっていい?」
カーテンを閉めてこたつに戻った藤堂さんがそう言った。
「最初からそのつもりだったでしょ?」
「まあな」
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