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 お父さんの本棚は、見知らぬ街のようだ。私の知らないところでいつのまにか生まれていた本たちが、当たり前のように存在している。知らなかった存在だからこそ、新しい発見に満ちている。  数日前に読んだ、納豆の歴史について書かれた書籍もそうだった。クラゲに刺されると納豆アレルギーになることがあるそうだ。同じ成分が含まれているため、体が免疫反応を起こすという。 「クラゲに刺されたことが影響して起こるアレルギーは何?」  その発見は三択クイズに昇華した。ネットで検索する作業では決して作成できないクイズだったと思う。知らなかった、面白い、などと部員の皆さんからの評判も上々だった。さて今回はどんなクイズと出会えるだろう。  書斎は壁の一面がすべて本棚になっていて、天井までみっちりと8段ある。CDやゲームソフトを除いても、小説、ビジネス書、マンガ、詩集、学術書など本のジャンルも様々。しかもまったく整理されていないため、アイドルのエッセイ本の横に「死とはなにか」などという重めの哲学書が並んでいたりして面食らう。その隣にあるのが納豆の本だ。  まだ手を付けていないエリアを見てみることにする。小型の脚立に上がると、窓から差す西日にちょうど真っすぐ射貫かれた。眩しさから逃げるように本棚に振り返ると、そこは高さが30センチほどもある最上段。雑誌や画集など大きめの書籍が並ぶ区画のようだった。ホコリがだいぶ積もっていて、しばらく使われていないことが見て取れる。鼻がむず痒くなった。  ひとつ右隣の区画が明るく感じ、導かれるように視線を移した。そこは棚の中ほどまでしか本が並んでおらず、最も手前の本の表紙に西日が直撃している。ずいぶんと白い表紙だな、と思って手を伸ばすと、それは本ではなくクリアファイルだった。中に一枚だけ白紙が挟まれており、眩しさはその照り返しだった。 「なに……、これ」  白い紙を取り出し、私は思わずつぶやいた。白紙と思われたその紙に、4文字だけ手書きの文字が書かれていたから。
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