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祥太とはクラスが違うため、顔を合わさずに過ごせることは有り難かった。でも一方で、知らぬ間に顔が難しくなっていたようで、「怒ってる?」「気分悪いの?」などと周りの友達に余計な気遣いをさせてしまった。
「今月のクイズも優勝したんじゃないの?」
日本史の授業中、隣の席の望美が心配そうに声をかけてくれた。どこかでクイズ部の結果を聞きつけたらしい。親指を立てて返事する。
「じゃあなんでそんな顔してんの」
「これが生まれつきの秋吉冴良なんですけど」
ただでさえ強張っていた顔面を、わざとらしく力んで変顔にしてみた。豚の鳴き声のような音を出して、望美が吹きだした。
「そこ、どうした?」
先生に見つかった。日本史の渡辺先生はクイズ部の顧問で、ここ城ヶ峰高校に在学していた頃からクイズ部だったという根っからのクイズ好きだ。
「この時の将軍は誰だ? 秋吉」
試すような質問。よし、これは早押しクイズだ。
急いで黒板を眺める。田沼意次、天明の大飢饉といった文字が読めた。脊髄反射で右手がありもしない早押しボタンを叩く。
「徳川家治、ですね」
正解! と教室のどこからか声が上がった。クイズ王! という声も聞こえる。隣の望美は笑顔で拍手をしてくれた。悪くないなと思う。クイズをやっていると、こういった実益もある。
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