第一章 黒羽忍法書

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第一章 黒羽忍法書

「今日も風が気持ち良いな」 草花が咲き誇る見晴らしのいい丘の上で、一人の美少年が風に吹かれていた。 彼の名はリンム。 忍者が住まう隠れ里のひとつ、風の里に生まれた見習い忍者だ。 薄桃色の髪に赤い瞳を持つリンムは、生まれた当時、伝説の色忍・クロハの生まれ変わりではないかと騒がれた。 伝説の色忍・クロハ――。 その男は花の里という貧しい忍者の里に生まれた。 クロハは閨の術に長け、あらゆるオジサマを虜にし、弱小だった花の里を五年であらゆる忍の里の頂点へと押し上げたと言われている。 リンムはそんなクロハの記憶を持って生まれてきた。 生まれた当時の噂話は、実は本当であったのだ。 リンムもまた、クロハのような色事に長けた優秀な忍になることを期待されていた。 しかし、当のリンムは未だに処女も捨てられず、閨事からは逃げてばかり。 なまじ忍術では敵なしだったため、襲ってきた男たちを片っ端から屠ってしまった。 今では四里一番の高嶺の花と呼ばれている。 リンムは大きく深呼吸して、そっと目を閉じた。 今でも思い出す。 前世・クロハの死ぬ直前のことだ。 あの日は大雨だった。
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