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◆◆◆◆◆
「ねえ?」
「なに?」
「最近、冬くんと仲がいいよね。なんでなの?」
休憩中、いきなり大成から尋ねられた春太は焦りつつも平静を装った。
「そうかな?」
「よく話すし、たまに一緒に帰ってるし。アイツのフォローもよくしてる」
「話しをするのは たまたま傍にいたからで、一緒に帰ったのは方向が同じだから。で、フォローするのは仕事を早く終わらせたかったから」
「お前ら、見た目も性格も真逆なのに気が合うんだな」
「話すと結構面白いヤツだよ」
「どこが?」
「天然なところが」
「どんな話をしてんの?」
「仕事の愚痴。今度三人で飲みに行かない?」
「いいけど、飯田さんも誘っていい? アイツ、焼きもち焼きだから」
「めんどくさいヤツだな」
「最近、それが重荷になってる。それに比べて、お前とは気兼ねしなくていいから楽ちんだ」
「あ、もうこんな時間」そう言い残すと、大成は休憩室から出ていき、春太は冬海のことを根掘り葉掘り聞かれなかったことに安堵したのだが……
――― やっぱり、他人にもわかるんだ。冬さんに好意的な態度で接していることが
今日だって、手柄をたてた冬海を褒めちぎったし――― と、入浴介助での出来事を思い返した。
「平川さんのズボンのポケットに入ってました」
脱衣所で介助していた冬海が手にしていたのは、使い捨てカイロ。春太が受け取ると温かく、しばらく持っていると熱いと感じるほどだった。
「平川さんの太ももに赤い痣があるのでポケットを探ったら これが見つかって」
すぐにナースコールをして看護師に診てもらうと「軽度の低温火傷」とのこと。「重篤になる前に見つかって良かった」と、冬海に感謝しながら処置をする。
日頃『仕事が遅い』『丁寧すぎる』と陰口をたたかれる冬海を見ていた春太は、これ見よがしに彼を持ち上げた。
「発赤だけで火傷と見抜くなんて。さすが、冬さん!」
「以前、父親にも同じことがあって。低温火傷って治りにくいんですよね。父の場合、水膨れができて跡が残ってしまいました」
「見落とすくらいの薄い発赤だったのに凄いよ。忙しいと つい観察を怠ってしまうから駄目だな。これからは冬さんを見習わないと」
春太がその場にいるスタッフに言い聞かせるように話すと、年配の介護士が「私も気をつけなくちゃ」と同意する。すると、冬海は恥ずかしそうに俯くのだった。
今思うと、コンビニの駐車場で冬海と男のツーショットを見てから庇ったり褒めたりするようになった。恐らく、あの男が冬海を優しく慰める姿に嫉妬して対抗意識を燃やしたのだろう。
俺も頼られる存在になりたい――― 春太はいつしか そう願うようになっていた。
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