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こんなに大好きなのに、想い続けてるのに、忘れ去られるなんて耐えられない。君が不特定多数の人間の目に触れ、声を聞かれるなんて我慢ならない。
ずっと我慢してたんだ。最期のワガママくらい、聞いてくれたっていいじゃないか。
他のことなんて忘れて、僕とふたりきりになってくれてもいいじゃないか。
ははっ、だから助けを呼んだって無駄だよ。
ほら、空をみてごらん。さっきまで青空だったのに、雲に覆われてしまったね。
あぁ、雪が降ってきた。きっと、またたくさん降って、僕達のことなんか覆ってしまうほど降り積もるんだ。そして僕達は、無に還る。
だからこそ、雪山を選んだんだけどね。
え? どういう意味って?
ほら、僕って体力ないだろ? 土を掘り返すなんて疲れるし、労働は嫌いだからさ。
けど、ここに来るのも結構大変だったかな……。
ふわぁ、眠くなってきちゃったよ。君も、叫びすぎて疲れてるんじゃないかい?
え? 喉が乾いた? あんまりよくないけど、雪を溶かして飲むしかないかな。ほら、僕って抜けてるからさ。チョコバーは何本か持ってきたけど、飲み物忘れちゃって。
死ぬのが怖い? 大丈夫だって。雪山で死ぬのって、下手なセックスより気持ちいいらしいよ。だから、ふたりで気持ちよくなりながら死のうね。
ところで、君はまだ、僕が悪いっていうのかい?
ははっ、そうかい。君はいつの間にか、心まで汚れてしまったんだね。こんなのは、僕が求めていた君じゃない。
でも、それには僕も多少責任があるかな。あんな汚い連中と引き剥がしてやれなかったんだもの。だから、多目に見てあげるよ。
あぁ、雪が綺麗だ。顔にかかると冷たいね。ジッパー、上まであげようか。
大丈夫、少しだけ隙間あるから。けど、ちょっと息苦しいかな?
このまま、お互いの息を吸いながら死ぬっていうのも、なかなかロマンチックでいいなぁ。
ねぇ、凍死するのと、窒息死するの、どっちが先かな?
僕と君、先に死ぬのはどっちかな?
ふふ、怖がらせてしまったね。怖がりさんなところは、昔と一緒だね。
寒いけど、この中はあったかいね。ね、死ぬまでに時間がかかる。思い出話をしようよ。
覚えてるかな? あれは、幼稚園の年長になったばかりの頃……。
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