降り積もり、無

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 誰もいない雪山は、太陽に照らされ、ギラギラと眩しい。サングラスを持ってきておいてよかったと、心の底から思う。  僕はソリに乗せていた大きな寝袋を、真っ白な大地に転がす。サラサラの雪が降り積もっているのか、寝袋は軽く沈んでしまった。寝袋からは、小さなうめき声が聞こえる。  やれやれ、手間がかかるのは、昔から変わらないらしい。もうすぐ、20歳になるというのに、情けない。  よく見ると、寝袋のジッパーは上を向いていない。やれやれ、僕だってもうすぐ20歳になるのに、抜けてるところは直っていないらしい。情けない。  僕は寝袋の横に膝をついて座ると、引っ張って向きを変え、ジッパーを上に向けた。  寝袋の中の君は、反抗的なうめき声を上げ、もぞもぞと動いている。  ジッパーを開けると、君は一瞬眩しそうに目を閉じ、再び目を開けると恨めしそうな目で僕を睨んだ。元を正せば君が悪いのだから、そんな顔をしないでほしい。  僕は更にジッパーを開けると、サングラスを外し、寝袋の中に入って君を抱きしめた。抵抗してるつもりなのか、足を蹴ってくるけど、勢いをつけるスペースがないから、ただ足を軽くぶつけられてるだけで、痛くはない。けど、煩わしいことこの上ない。 「おとなしくしててよ。最期くらい、君とゆっくりしてたいんだから」  僕はため息をつき、ジッパーを上げる。雪山の中だというのに、寝袋の中は温かい。これなら、きっと死ぬまでに時間がかかるだろう。 「んーっ! んんっ!」  唸り声で、猿ぐつわを外し忘れたことに気づく。いや、見えていたから気づいていたんだ。けど、反抗的な目で見るから、いいかなって。  でも、やっぱり最期くらい、お喋りがしたい。そう思って猿ぐつわを外すと、君は助けを呼ぼうと大声で叫び、むせ返った。  もう、そんなことをさせるために、猿ぐつわを取ったんじゃないんだけどな。 「騒がないでよ。ここは立入禁止区域だから、誰も来ないよ」 「なんでこんなことするの!? アタシ、アンタになんかした!?」  なんかした? 果たして、そうだろうか? 「うーん、どうだろうね? なんかしたということに入るのかな? よく分からないから、話を聞いて、君自身が判断してくれる?」  そう前置きをすると、僕は昔話を始めた。
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