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「小テストどうだった?」 「けっこうよかった」 「うそだろ」  手元を覗いたクラスメイトが、点数を見て顔をしかめる。追試仲間の当てが外れた、失望の表情だろう。 「昨日シュウトに教えてもらったから」 「俺も頭いい幼馴染みが欲しい」 「わかる」  六十点満点中、三十三点。シュウトに知られたら、呆れられるか褒められるか微妙なラインだ。そんな及第点ぎりぎりの解答用紙が、友人のあいだを一周して戻って来る。 「なあ。カナってさ、この字でカナタって読むの?」  氏名欄の「吉住奏」の文字と顔を見比べられて、俺はへらりと笑い返した。 「読まないよお」 「じゃあなんで、高山、お前のことカナタって呼ぶの?」 「うーん、あだ名ってゆうか。カナデって女の子みたいで嫌だから、カナタって呼んでって……子供の頃に頼んだんだよね」 「ふうん」  尋ねたほうは既に興味を失ったらしく、別の話に気を逸らしている。  俺はちくちくと痛む胸を押さえることさえできず、解答用紙を無意味に小さくたたんだ。  幼馴染みに恋をしている。  先に好きになったのは、きっと俺だった。もっとも、向こうも同じことを思っている。  大人しくて泣き虫で、絶対に俺に言い返すことなんてなかったカナデと、大喧嘩をした。  しばらくのあいだ順調に進んでいた治療も、それ以来、行き詰まったままだ。 (俺のせいだ)  カナデは楽しいことも大事な友達も全部俺にくれたけど、シュウトだけはくれなかった。  わかっている。カナデはシュウトが好きで、シュウトもカナデが好きだって。 (邪魔なのは俺なんだ) 「カナタ」  はっと顔を上げると、入り口にシュウトの姿がある。  俺と目が合うと、唇だけで「帰ろ」と言って顎をしゃくるから、リュックをひっつかんで教室を出る。身長差が開く一方のシュウトの顔を見上げながら、俺はとびきりの笑顔を作った。 「ね、小テスト、追試回避した」 「おー、偉い偉い」  大好きなシュウト。俺の初恋のひと。 おわり
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