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「……とりあえずお前は、もうしばらくはここにいるんだな。大学だなんだって、いなくなったりしねーんだな」
「……うん……」
「もう他に俺に嘘をついてることはねーな?」
「……うん」
「ほんとか?」
「……うん」
顔を上げ、下から覗き込むようにゆくまを上目遣いに見上げるクロの身体を、もう一度力を込めて抱き締めてみる。
ぺたん、と行真の胸に頬を寄せるクロの温かさに、泣きそうになった。
ゆらゆらと揺れるしっぽが、さわさわと身体に触れる。
「俺も、……俺もクロが大事。クロのほんとの姿がなんだろーと、クロが必要。だからここにいてよ。クロにいて欲しい」
「……っ、ゆくま……」
顔を上げたクロの目に、また涙が溜まっていくのが見えた。
自分とクロじゃ、人間であろうとなかろうと、釣り合わないのは目に見えてる。
そう思えば、心からの本心を全てさらけ出してしまうのは怖かった。
でも、クロはまた嬉しそうに笑う。
━━「ゆくま」
そう、自分の名を、まるで大切なものを呼ぶかのように、呼んでくれる。
「いていいの? 僕、これからもここにいてもいいの?」
「ん……」
照れ臭さが邪魔をして無愛想な挨拶を返せば、
「ゆくま、嬉しい!!」
クロがさらに勢い良く飛び付く。ぴょん、と立った耳が頬に触れて、くすぐったくて仕方ない。
「……ところでどうなってんのこの耳。頭から直接生えてんのか?」
「にゃっ!? 痛い、引っ張ったら痛い、ゆくま!」
「わ、ごめん。つかほんとに頭から生えてる……」
「だってほんとの耳だもん。ね、撫でて、ゆくま。僕がチビのクロだった時にしてくれたみたいに撫でて」
「ん……」
柔らかな猫の方の耳を、さらさらの髪ごと鋤くように撫でれば、クロは気持ち良さそうに目を閉じた。
しっぽまで一緒にゆらゆらと揺れる。
耳としっぽが生えているといえ、心地よさそうに目を閉じる長い睫毛の面差しはあの綺麗なクロだから、かつての仔猫を愛でているような気持ちにはならない。
むしろもっと、胸の奥から沸き上がるような何かが全身を巡って━━
「……出したり引っ込めたりって自由に出来んの? これ」
気を反らすように話題を変えれば、行真の胸に心地よさげにぺたんと身体を預けていたクロが顔を上げた。
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