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「……ゆくま、発情してる?」 「……っ」 エメラルドグリーンの瞳が切なげに行真を見下ろしていた。 「何言って……」 クロの雰囲気に気圧されながらも、しっかりと重なり触れ合う下腹の辺りは隠しようもなかった。 「僕も……。僕も、だから……」 「……っ」 ゆっくりとクロの顔が近付いてくる。 魔法にでもかかったかのように動けなくなった行真に、1㎝、また1㎝とクロが重なっていく。 「ま、待て!!」 「う?」 行真の手が、慌ててクロを押し留めた。 「なっ、何すんの?」 「仲良しはキスするってテレビが言ってた」 「ほんとお前いつもテレビで何見てんの!?」 近付こうとするクロの額に手を添え、「待て」の姿勢を指示すれば、クロはまた恨めしげに行真を見た。 「……ゆくま嫌? キスは嫌?」 「いや、キスとかは普通は簡単にしたりしねーもんなの!」 「簡単にじゃないよ、ゆくまとだけ。だって仲良しだもん。ゆくまも発情してるし」 「いや、それは……」 「やっぱり嫌なの? ゆくまは僕が嫌?」 「そんな訳ねーだろ!だから、クロが嫌……とかそう言うんじゃなくて」 クロの額に添えた行真の手から、微かに力が抜けていく。 「……クロは猫だからわかんねーかも知れねーけど、俺は人間の中じゃだいぶ底辺の方。誰からも好かれたことなんてねーし、こんな風に好意を向けられたこともない。向けられるのはいつも、侮蔑とか嫌悪とか、そんなやつ。何もしてなくても、いるだけで人を嫌な気持ちにさせる類の人間らしいから……」 話す声が僅かに震えてくるのがわかる。 今まで経験してきた、様々な思いが頭の中を駆け巡る。 傷つくことに鈍感になろうと努力はしている。でも、そう思えば思おうとするほど、いつだってその難しさを思い知る。 「……だから、お前がこの先人間でいるのか猫でいるのかはわかんねーけど、人間でいるなら俺みたいなのとその……、好奇心だけでそういうことは止めとけよ」 クロの額に触れたままだった手から力が完全に抜け、滑り落ちるように離れていった。 「な。……頼むから」 一緒にいられるだけで十分だ。 ペットが飼い主に抱くような敬愛だとしても、「好き」と言ってくれた。 それ以上に望むことなんてない。 これ以上は、自分の気持ちを抑えることが出来なくなる。 クロと一緒にいたいなら尚更だ。
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