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「……」
胸の痛みに比例して俯いていく行真の顔に、長い前髪がかかる。
自分の、クロとは正反対な愛され難い目が隠れて丁度良い。
萎れていく心の中、そんなことを思っていた。
「……っ」
ふいに視界が拓けたかと思うと、額に柔らかなものが触れた。
「ク………、クロ……っ!?」
ゆっくりと、行真の額に唇で触れていたクロの綺麗な面差しが離れていく。
それは妖艶な程に、美しい眼差しだった。
背筋にビリっと電流が走るような感覚を覚える。
優しくて、切なくて、息が止まりそうになる。
「僕はもう猫には戻らない。ゆくまとずっと一緒にいるから」
「だっ、……だったら……尚更……」
「ゆくま」
クロの真っ直ぐな瞳が、行真を貫いていた。
「ゆくまは、優しい人だよ」
「……優しくなんか……」
「僕は知ってる。ゆくまが世界一優しい人間だって、僕はちゃんと知ってるもん」
「……」
「ゆくまが好き。好きだから、キスしたいんだよ、僕」
━━猫って多分、キスなんかしないよな。あー、でも顔舐めあったりしてんのは見たことあるか━━
「……」
そんなことを頭のどこかで思い浮かべているうちに、行真の両手がクロの頬を優しく掴んでいた。
もう、クロで溢れる心の中身ごと、それを止めることなんて出来なくて━━
……ゆっくりと、優しく。それでいて、柔らかで熱く。
行真はクロに、唇を重ねた。
「……っ、ん……」
一度唇が離れても、直ぐにどちらともなくまた重ね合う。
行真の肩に置かれたクロの両手と、折れそうな程細いクロの腰に回された行真の腕。どちらも次第に力が籠っていく。
「や……舌……」
それはやがて舌で舌を舐め合うようなキスに形を変え、深さを増していった。
「ゆくま……」
吐息を多く含んだクロの切ない声に煽られ、また貪るように彼の唇を奪う。
頭の芯から痺れるような感覚が全身を巡り、熱へと変わる。
経験なんてもちろんないのに、本能から指示される感覚。クロを抱き締めていた掌が、クロの身体の線を辿り始めていた。
ぶるり、とクロの身体が小さく揺れる。
愛らしい唇から、官能的な吐息が漏れた。
ちゅ、ちゅ……と、唇から頬、こめかみへと、行真は唇をずらしていく。
「ん……」
行真の唇が触れる度に、クロは小さく反応を見せる。
頭の上でとろりと動く柔らかでふわふわの耳まで甘噛みすれば、堪らずクロからは「んぁ……」と甘い声が漏れた。
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