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最初に引っ掛かったのは、初めて行真の部屋に行った時だった。
独り暮らしだって言ってたのに、食器は全部二人分あって。
お揃いの柄のマグカップまであった。
僕のために揃えたような、新しいものじゃない。
もちろん友達なんかが来ることもあるだろうから、それがあったって不思議じゃないんだけど……。
でも、行真が友達を呼んでるとこなんて見たことがない。
友達いないって言ってたもん。
猫にはやたら好かれるみたいで、相談相手は猫だとか言って、欠かさず飼い猫でもない猫のためのおやつを買ってる変なとこもある人だ。
まぁそれはさておき、次に引っ掛かったのは、行真のクローゼットの中にあった、部屋着だ。
明らかに行真が着れるようなサイズじゃないやつ。
……悔しいことに、僕が着たらぴったりだった。
だから、きっとこれは行真の前の恋人のもので、しかも僕と良く似た体型の人だったってことになる。
行真を動揺させてやろうと思って、わざとそれを引っ張り出して
「ね、行真。これ借りていい?」
そう訊けば、行真は一瞬とても驚いた顔をして。
「いいよ。……懐かしいな」
って笑った。
何その余裕。凄いムカつくじゃん。
他にも歯ブラシだとか、使いかけのブラシとかも洗面所の棚の奥の方に置いてあって、もうこんなのクロ確定だ。
昔の恋人に嫉妬するとかバカかもしれないけど、それでもこんな痕跡、さっさと捨てていて欲しかった。
完璧な恋人だと思ってたのに、行真のバカ。バカバカバカ。
トドメを刺されたのは、リビングの本棚の引き出しの奥に隠されていた幼児用のドリルを見つけてしまった時だった。
行真には甥っ子も姪っ子もいないのに、こんなものがあるのは絶対おかしい。
しかも、『だいすき』だなんてへったくそな字で書かれた手紙を、明らかに大切に大切に仕舞い込んでいた。
……行真の忘れられない恋人は、僕と同じくらいの身長の、髪の長い女性で、しかももしかしたら子どもまでいるのか。
頭を鈍器で殴られたみたいにショックで、息も出来なくなって。
行真の仕事が終わる前に合鍵で入ったその部屋を飛び出した。
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