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━━彼を最初に見た時、昔家にいた『クロ』という猫を思い出した。
その日、勤務先のパチンコ店から帰宅した遠阪 行真は、住んでいるマンションの自室に入ることが出来ず、立ち竦んでいた。
理由は1つ。
扉の前に、男が座り込んでいたからである。
……誰。
こんな夜半過ぎに自分を訪ねて来る人物に心当たりなどなかった。
マンションの駐車場から5階にあるこの部屋に辿り着くまでに、30回は誰にともなく「寒い」を連呼した、1月の寒空。冬が本気を出して温暖化だの何だのと騒ぐ人間を嘲笑うこの季節に、こんな外に座り込んで眠るなんて正気の沙汰ではない。
黒いパーカーに黒いダウンを羽織り、口元まで同じく黒いネックウォーマーで覆われている。頭にはやっぱり黒のニット帽を被り、それなりに暖をとることは心掛けているようであるが、いかんせん残念なのは下に履いているジーンズに、所謂ダメージ加工が施されていることだった。
寒さに身を縮めているのか、身体を丸くして抱えている膝の辺りに大きな穴が空いている。
これではせっかく産み出した暖かな熱が全てその無慈悲な穴から漏れ出していってしまうではないか。
ファッションとは気合いである、と耳にした覚えがあるが、無理をしてまでするものでもないだろう。
健康あってのファッションなのだ。
それはさておき、ドアの前に座り込む謎の男を、行真はどうしたものかとかれこれ10分以上、途方に暮れつつ見下ろしていた。
ニット帽とネックウォーマーに表情が隠されてはいるが、多分凄く若い。
今のところわかるのはそれくらいで、記憶を手繰り寄せてみても、やはり全く見覚えのない人物だ。
……そもそも、自分を訪ねて来るような人物には本当に心当たりがないのだ。
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