初夏、夕立とバス停の先駆

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「凍えるような寒さや空気中の不純物が影響して出来た雪が溶けずに積もっていくように、人生だって苦労したことや辛かったことは経験として積み上がっていくよね。努力の結晶は美しいけど、その中には雪が空気中の塵やほこりを含んでいるように、決して綺麗なものばかりで出来ているわけではない。むしろ汚いものばかりで、それなのにどちらも美しく見えるのは、やはり積み重なったものが最終的には姿を変えて、光り輝くようになっている。そう、僕は思うんだ」 「でも、何の努力もしなくても、すごい奴はいます」  例えば、いわゆる天才、というやつとか。この男が言う努力の積み重ね、というものが無くても、クラスで輝いているやつだっている。スポーツで結果を残すやつだっている。なぜあいつらは、美しく生きているのか。この僕と、一体何が違うと言うのだろうか。 「いいところに目をつけたね。そう、それはポイントだよ」  男は片目を瞑ってみせた。その姿はひどく爽やかで、雪のように白く美しい清廉さを感じさせた。が、この男の言うところでは、その雪ですら不純物を孕んでいる、ということだが。 「積み重ね、ではないんだよ。雪は誰かが頑張って降らせるものではなくて、自然として降ってくるものだろう?それと同じように、僕の言う積み重ねというのは、環境がそうさせるところが大きい。雪が降りやすい地域では雪が積もりやすいように、元々そういう環境にいるやつってのは、自然とこの積み重ねが出来ている。そういう意味では、積み重ねという言葉より、自然と『降り積もる』という言い方が正しいかもね。少し使い方は違うかもしれないが、僕は雪が降る積もることから、人生を観察できた。双方はそれぞれに関係がないが、偶然の一致な気がしてならない。使い方は間違っているような気もするが、これがシンクロニシティだと、僕は思う」
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