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部屋を出て暫く、道筋は把握しているため迷いなく進むふたり。
途中何度か組員と遭遇しかけたが、身を隠しなんとかやり過ごしていた。
何やら皆、慌ただしく移動しているのもあってバレずに済んでいる。
見つかるのも時間の問題かと思ったが、これならそのまま突破できるかもしれない。
しかしなんだか嫌な予感がして、蓮華はポツリと呟いた。
「なんでこんな騒がしいんだ?」
「あぁ、そりゃきっと…」
蓮華の疑問に陸兎が答えようとしたその時。
荒々しい足音がいくつも聞こえて来て、ふたりは咄嗟に身を隠す。
様子を伺うと、大勢の組員が何かを追いかけるようにして走っており、その先には──小雨の姿。
「うげっ、アイツ見つかりやがった!」
「ちっ。陸兎、出るぞ」
ひとりでも見つかればどうしようもない。
少し強引な手であるが、策はあった。
「こんな状況で出るのかよっ?異能使えば切り抜けられるだろうけど、殺しかねないぜ?」
恐らく、組員たち、そして司祭も異能を持たない人間だ。
異能持ちは確信まではいかないが、身に纏うものでなんとなく識別することはできる。
同族故に引かれ合うものがあるのか、なんなのかは分からないが。
相手方に異能持ちはいない。
陸兎の考えはもっともであり、蓮華自身も武力を持って解決する気はなかった。
「さっきの銃用意しとけ。言ったろ、一芝居してもらうって」
そうして陸兎に指示を出す。
その内容に陸兎は盛大に顔をしかめたが、次には大きく溜息を吐き──蓮華の首に腕をグッと巻き付けた。
「おらおらテメェらぁッ!!」
響き渡る怒号に、組員らが何事かと視線を向ける。
その先、蓮華を引き寄せ頭に拳銃を突き付けた陸兎が、再び声を上げた。
「動くんじゃねぇぞ!この坊ちゃんのお綺麗な顔が吹き飛ばされたくなかったら、言う通りにしてもらうぜ!」
悪党になりきる陸兎を、蓮華は横目で見遣る。
自分を使って組員を脅せとは言ったが、これじゃあ何処ぞのチンピラだ。
威厳のなさに呆れてしまう。
「小物っぽい」
「うるせぇ…ッ」
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