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コイツは何を言っているのかと訝しく思っていると、相手は立ち上がり先ほど入ってきた扉を開いた。
するといつの間にいたのか、待機していた中年の男へと声をかける。
頷いた男がチラリと此方を見遣り笑みを浮かべた気がした。
その視線にどこか既視感を覚え、蓮華は体を強張らせる。
全身がこれ以上は危険だと警告するが、すぐに増援を呼ぶことも出来ない現状、今逃げ出せば相手に猶予を与えることになる。
蓮華が通報することを恐れ、何人かは逃亡するだろう。
司祭などは最優先で姿を眩ますはずだ。
そんな真似は決してさせない。一人残らず捕まえる。
だから今は、ここで耐えなければならない。
「蓮華くん、此方へいらっしゃい。さっき言っていた2つ目の検査だ」
***
「こうなったら構ってられねぇ、無理やり車を確保すっぞ!」
「……そう、ですね。後で秀さんにどやされるのは怖いですけど、仕方ありません!」
誘拐された子供の一部は遺体で発見されているが、見目麗しい者は生かされている。
蓮華の容姿となれば殺されることはないだろう。
しかし、安全とは到底言い難い。
「あっ、来ました!」
声を上げた小雨に、陸兎は我に返る。
どうやらかなり動揺しているようだ。
落ち着けと自分に言い聞かせるように、拳で胸を叩く。
そう、自分は動揺している。
何故だろうか、蓮華が攫われたから?
『……初めてだ。お前が、俺の名前呼んだの』
何故か数日前の記憶が蘇った。
あの時アイツは、いつもの冷めた表情を忘れ、年相応の無防備な顔をしていた。
どこかあどけなく、そして悲しげな双眸に、一瞬言葉が詰まった。
分厚く覆い隠された内側、蓮華の根幹に触れてしまったような気がしたのだ。
それは今にも消えてしまいそうな儚く不安定な者で、しかしそれが蓮華の本来の心なのだと悟った。
こんな世界では覆い隠し、偽らなければならなかった、清純な心。
「ばっきゃろー!危ねぇじゃねーか!」
クラクションと共にオヤジの怒声が聞こえる。
無理やり車の前に割り込んだ小雨に、慌てて急停車したのだ。
小雨はいつもおどおどしているくせに、こういうところは大胆だ。
「おっちゃん!その車乗せてくれ!」
声を上げ、陸兎は車に走り寄る。
急がなくては。
頭に浮かぶのはずっと、あの儚く脆い蓮華の姿だった。
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