第三章

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ここでまだ囚われている子供は、取り敢えず命に別状はなさそうだ。 傷を負っている子供も見当たらない。 しかし例の検査に落ちた場合は、死体となって捨てられる、というわけか。 先程受けた仕打ちを思い出し、体が燃えるように熱くなった。 羞恥と怒りに気が狂いそうになる。 「おい、大丈夫か?」 「…っ」 かけられた声に我に返る。 そして目の前にいる少年の存在を思い出し、なんとか気持ちを落ち着かせるべく息を吐いた。 顔を上げると、何故かまじまじと見つめられている。 首を傾げれば、彼はひとり呟くように言った。 「また驚かされた。さっきあんな綺麗に笑ってたのによ。何処ぞの坊ちゃんかと思ったけど、どうやらそんなタマじゃないみたいだな」 「どういう意味だ?」 「だってお前今──人を殺しそうな顔してたぞ」 言葉に詰まる。 相手は冗談を言っているようには見えなかった。 上手い誤魔化しが思いつかない。 もともと口下手でもあり、どう答えるのが当たりか分からず、蓮華はひとまず話題を逸らすことにする。 「アンタ、名前は?」 「海斗(かいと)。お前は?」 「蓮華。…ここに来てどのくらい経つ?」 「確認のしようがないけど、大体3ヶ月だな」 長いな。 海斗の様子を見ると、元々の性格もあるだろうが、攫われた身であっても落ち着いているように見えた。 「……辛くは、ないのか」 「んー。初めは辛いし怖かったけど、暴力を振るわれるわけじゃないし、なんつーか……人間ってのは、環境に適応しちまうんだな。“あんなこと”されるのにも、俺は…」 眉を寄せ押し黙った海斗の胸の内。 それを推し量ることは出来はしないが、蓮華自身、抱えるものはある。 自由を奪われ、いいように体を蝕まれる。 今もあの笑い声が、体を這う手が、己を縛る。 苦しかった、惨めだった、恨めしかった。 あんなものが許されていいのか。 いや、そんなはずがない。 そうだ。こんなことは、あってはならない。 「また会えたなぁ、かわい子ちゃん」 「!」 近付いてくる足音と共にかけられた声に、顔を向ける。 その先で口を歪め笑う男──先程己を戒めた張本人に、蓮華は頭の何処かで何かがぷちりと切れる音がした。
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