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ここでまだ囚われている子供は、取り敢えず命に別状はなさそうだ。
傷を負っている子供も見当たらない。
しかし例の検査に落ちた場合は、死体となって捨てられる、というわけか。
先程受けた仕打ちを思い出し、体が燃えるように熱くなった。
羞恥と怒りに気が狂いそうになる。
「おい、大丈夫か?」
「…っ」
かけられた声に我に返る。
そして目の前にいる少年の存在を思い出し、なんとか気持ちを落ち着かせるべく息を吐いた。
顔を上げると、何故かまじまじと見つめられている。
首を傾げれば、彼はひとり呟くように言った。
「また驚かされた。さっきあんな綺麗に笑ってたのによ。何処ぞの坊ちゃんかと思ったけど、どうやらそんなタマじゃないみたいだな」
「どういう意味だ?」
「だってお前今──人を殺しそうな顔してたぞ」
言葉に詰まる。
相手は冗談を言っているようには見えなかった。
上手い誤魔化しが思いつかない。
もともと口下手でもあり、どう答えるのが当たりか分からず、蓮華はひとまず話題を逸らすことにする。
「アンタ、名前は?」
「海斗。お前は?」
「蓮華。…ここに来てどのくらい経つ?」
「確認のしようがないけど、大体3ヶ月だな」
長いな。
海斗の様子を見ると、元々の性格もあるだろうが、攫われた身であっても落ち着いているように見えた。
「……辛くは、ないのか」
「んー。初めは辛いし怖かったけど、暴力を振るわれるわけじゃないし、なんつーか……人間ってのは、環境に適応しちまうんだな。“あんなこと”されるのにも、俺は…」
眉を寄せ押し黙った海斗の胸の内。
それを推し量ることは出来はしないが、蓮華自身、抱えるものはある。
自由を奪われ、いいように体を蝕まれる。
今もあの笑い声が、体を這う手が、己を縛る。
苦しかった、惨めだった、恨めしかった。
あんなものが許されていいのか。
いや、そんなはずがない。
そうだ。こんなことは、あってはならない。
「また会えたなぁ、かわい子ちゃん」
「!」
近付いてくる足音と共にかけられた声に、顔を向ける。
その先で口を歪め笑う男──先程己を戒めた張本人に、蓮華は頭の何処かで何かがぷちりと切れる音がした。
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