第三章

18/19
前へ
/71ページ
次へ
まだ息のある相手を、蓮華は茫然と見下ろす。 俺は、今……。 「蓮華!」 「…っ!」 パンッと頬を両手で挟まれる。 顔を上げた先、真っ直ぐに此方を見つめる陸兎がいた。 目が合った途端、強張っていた体が弛緩する。 靄のかかっていた意識が晴れる。 「しっかりしろ」 「……来るのが遅い」 「うっせ」 何故か胸の内に熱が帯びる。 しかしそれは先ほどのものとは違い、心地の良い暖かさで、気を抜くと何かが溢れ出してしまいそうだった。 「おい、蓮華…」 唖然とした様子で海斗に声をかけられる。 周りの子供達も、たった今起きたことに驚きを隠せない様子だった。 そこでスッと、不安定に揺れていた心が正常に戻る。 己の役目を思い出す。 今はこの子供達を保護することが第一優先。 動じず、冷静に、今するべきことを──。 「陸兎、そいつの腰の鍵を」 「へいへい」 すっかり意識を失っている男の腰には鍵がかかっていた。 蓮華の誘いにも直ぐに応えようとしたことから、男は足枷の鍵を所持していたはず──。 予想は当たり、鍵を差し込めば足枷は容易く外された。 自由になった足で倒れ伏す男の元へ歩み寄り、目当てのものを見つけると陸兎へ投げて寄越す。 「ぅおっ…って拳銃じゃねぇか。俺はこんなの必要ねぇよ」 「ただの小道具だ。お前には一芝居してもらう」 「はぁ?」 「あとその男、ベッドの中に放り込んどけ」 説明もおざなりに命令する蓮華に、陸兎は「なんかこの感じ懐かしく感じる…」などとブツブツ言いながら、ズルズルと男を移動させる。 その間蓮華はベッドに座る海斗の元へと歩み寄り、静かに告げた。 「ここにいる全員、必ず解放する。だから今はここで騒がず待機していてくれ」 「……お前、ほんとに何者なんだ?」 その問いに、束の間固まる。 何者。 自分は何者なのだろうか。   昔から自分の居場所など不確かなままだ。 蓮華。 その“彼”が付けてくれた名以外、自分を示すものなどない。 その時、何故か頭に陸兎の顔が浮かんだ。 「おーい蓮華、運んだぜっ」 声をかけられ、身を起こす。 こちらを見上げる海斗に蓮華は笑いかけた。 「ただのガキだよ。アンタと同じな」
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加