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まだ息のある相手を、蓮華は茫然と見下ろす。
俺は、今……。
「蓮華!」
「…っ!」
パンッと頬を両手で挟まれる。
顔を上げた先、真っ直ぐに此方を見つめる陸兎がいた。
目が合った途端、強張っていた体が弛緩する。
靄のかかっていた意識が晴れる。
「しっかりしろ」
「……来るのが遅い」
「うっせ」
何故か胸の内に熱が帯びる。
しかしそれは先ほどのものとは違い、心地の良い暖かさで、気を抜くと何かが溢れ出してしまいそうだった。
「おい、蓮華…」
唖然とした様子で海斗に声をかけられる。
周りの子供達も、たった今起きたことに驚きを隠せない様子だった。
そこでスッと、不安定に揺れていた心が正常に戻る。
己の役目を思い出す。
今はこの子供達を保護することが第一優先。
動じず、冷静に、今するべきことを──。
「陸兎、そいつの腰の鍵を」
「へいへい」
すっかり意識を失っている男の腰には鍵がかかっていた。
蓮華の誘いにも直ぐに応えようとしたことから、男は足枷の鍵を所持していたはず──。
予想は当たり、鍵を差し込めば足枷は容易く外された。
自由になった足で倒れ伏す男の元へ歩み寄り、目当てのものを見つけると陸兎へ投げて寄越す。
「ぅおっ…って拳銃じゃねぇか。俺はこんなの必要ねぇよ」
「ただの小道具だ。お前には一芝居してもらう」
「はぁ?」
「あとその男、ベッドの中に放り込んどけ」
説明もおざなりに命令する蓮華に、陸兎は「なんかこの感じ懐かしく感じる…」などとブツブツ言いながら、ズルズルと男を移動させる。
その間蓮華はベッドに座る海斗の元へと歩み寄り、静かに告げた。
「ここにいる全員、必ず解放する。だから今はここで騒がず待機していてくれ」
「……お前、ほんとに何者なんだ?」
その問いに、束の間固まる。
何者。
自分は何者なのだろうか。
昔から自分の居場所など不確かなままだ。
蓮華。
その“彼”が付けてくれた名以外、自分を示すものなどない。
その時、何故か頭に陸兎の顔が浮かんだ。
「おーい蓮華、運んだぜっ」
声をかけられ、身を起こす。
こちらを見上げる海斗に蓮華は笑いかけた。
「ただのガキだよ。アンタと同じな」
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