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そんな紆余曲折を経て、待望の男児が誕生する。
産みの苦しみなど一瞬で吹き飛ぶほどの喜びに、私は満たされていた。
「くふふっ、可愛い」
親の欲目とは凄い。
明らかに私に似た面差しであることは残念だったかもしれないが、そんなことはさした問題でもなく可愛らしかった。
そしてこの日、経過良好と母子ともに判定された私たちは退院する。
「血液型は調べないのですか?」
傍らで医師の診断を聞いていた夫は不思議に思って訊ねていた。
私自身も不思議に思って、医師を見遣る。
「昔は退院するまでに血液型の検査をしたのですが、今は緊急時でもない限り調べません」
そう医師から説明を受けた。
「何故ですか?」
そう問うたのも夫である。
「まだ母体の血の影響が色濃く残っているので正確な判定に至らないのです」
こんな小さな身体に針を刺す行為が空恐ろしくて、私は良かったねと赤子の顔を覗き込む。
――それにこの子は調べるまでも無くA型だもの。
お姑も今は亡きお舅もAB型。そして夫はA型で私はO型。
ならば、私たちの子はA型でしかないのだ。
しかし、夫は違った。
「正確な判定が出来るのはいつ頃ですか?」
益々食い下がるので、私はいつからそんなに血液判定に興味が?と、首を傾げてしまった。
それでもこの時はまだ気付かなかったのだ。
「正確な抗体が出来るのは四歳以上と言われています。勿論、個人差もあるので小学生になってから調べるといいと思いますよ」
「そんなに――」
深刻そうに眉根を寄せた夫を見つめ、私はようやく夫が何にこだわっているのかを察した。
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