海の雪、屍の花

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 母と同じ病にかかってから、五十鈴は寝たきりになっていた。  動けない身体を捨てて、彼女は今、呪法で意識を具現化して飛ばしている。光を扱う呪法が得意な彼女は、光ある場所でならそれができた。ただ、存在して話すことはできても、他にはなにもできない幽鬼のようなものではあったが。  そして、そんな不安定な現状も、もう限界だ。  身体を蝕む病を癒すことはできなかった。五十鈴の身体は、もうとっくに弱り切っている。彼女は死ぬ。身体が死ねば、その意思も消える。ひと月か、ふた月の内の話だ。  すこしでも長く生きてほしい、と思う。  天音は目を伏せて、ぐん、と波をつくると、海の底に身を沈めた。
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