海の雪、屍の花

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 海の底は海雪がつもっていて、白くぼんやりと光っていた。その海雪の上に、白い花が無数に咲いている。海雪は死の結晶なのに、なぜだか降りつもると、新しい命を芽吹かせる。  天音はその花畑に寝転んだ。  海雪の花を知っているのは、天音だけだ。郷の人たちはそもそも海に近寄りたがらないし、五十鈴もここまで潜るだけの呪法と集中力を持たない。もしかしたら、海雪を教えてくれた母も、雪が降りつもり、花が咲く光景は見たことがなかったのではないかと思う。  海雪は、相変わらずゆるやかに舞い落ちていた。  そこに、すーっと波をかきわける気配がした。闇の中、海雪の中を、一尾の龍が泳いでくる。その瞳には形容しがたい知性の光がある。  海の生き物たちは、従順な態度で龍に道を譲った。穏やかに見える龍だが、歯向かう者がいれば荒々しい本性を現すことを、か弱い彼らは知っているのだ。  龍は天音のそばに下りたち、海雪から育った白い花を()む。海雪やそこから育った花は、墓地の花と同じように魔物を魅了するらしい。  天音はぼんやりとその様子を眺めていた。  ――五十鈴はそのあと、ひと月生きて、死んだ。
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