14人が本棚に入れています
本棚に追加
「それと自殺した場所だけどさ」
喉に痛みが走った。手足の痺れと痛みはゆっくりと全身へ侵食していく。
「塾の屋上から飛び降りたんでしょ。どうしてわざわざ通っている塾で」
「そんなの私には分かんないよ」
香穂ちゃんの瞳が潤みはじめた。
「近くには彼氏がいたんでしょ。彼氏がそばにいたのに飛び降りる理由ってさ」
浮気をした、もしくはひどい別れ方を切り出した彼氏への悍ましい当てつけ。
清美さんの心は悲しみと憎しみに支配されていた。
一生あなたが忘れられない女になってやると、命を絶つことでそれを実行したのかもしれない。
それは僕の考えすぎかもしれない。
物証もない。
けど、僕は限りなく確証に近い考えを伝えた。
それを聞いた香穂ちゃんの顔は歪みはじめていく。
「そんな・・・・・・そんな」
「だから・・・・・・」
呼吸が苦しくなってきた。何とか言葉をつなぐ。
「香穂ちゃんが清美さんを殺したわけじゃない」
僕は端末に写る彼女を見ながら動かない。いや、動けなかった。
できれば今すぐ、彼女の髪の毛を撫でて、抱きしめて、もう大丈夫だよとキスをしたい。
だが、すでに終わりを予期していた。
「かほ・・・・・・ちゃん・・・・・・」
我ながら情けない声が出た。
「何?」
僕は最後の力をふりしぼった。
「もう一度、メモリーを演奏してくれないかな」
最初のコメントを投稿しよう!