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彼女は頷くと、フルートをそっと唇にあてた。柔らかい音色が優しく届く。
僕と出会ってくれてありがとう。
付き合ってくれてありがとう。
僕は香穂ちゃんを愛している。
もう、それを伝えるだけの体力も残っていなかった。
もう、彼女にしてあげられることもない。
けど、もしも。
僕の考えすぎの悪い癖が、この少女が抱えてきた闇を取り払うことができたなら––––
彼女のこれからの人生を照らすことができたなら––––
フルートの音色が途切れた。
同時に、卒業証書の筒が転がって床に落ちる。
「宗一郎くん」
香穂ちゃんの声は、やがて嗚咽へと変わっていった。
香穂ちゃん、卒業おめでとう。
視界が完全に暗闇に落ちる瞬間、僕は彼女がフルートを演奏する姿を頭に描いていた。
〜完〜
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