命の願い

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 通っていた塾の屋上から飛び降りたのだ。さらに不幸なのは、彼氏がすぐそばにいたことだ。  私は清美もその彼氏のことも不幸にした––––香穂は激しく後悔した。  落ち込んでいる人間に「もっと頑張ろう」なんて、絶対に言ってはいけなかった。  正論は人の心を破壊することがある。  そのことに、当時の自分は気づかなかった。  あの日から、毎日毎日、十字架を背負いながら生きてきた。  悔いても悔いても、血まみれの両手が地の底から引きずるような感覚を感じている。 *   ねえ香穂ちゃん、と僕は端末の中の彼女に呼びかける。 「清美さんが自殺したのは、香穂ちゃんのせいじゃないよ」 「そう言ってくれるのはありがたいけど、でも・・・・・・私があんなこと言わなかったら、清美は命を絶つことなんてしなかったんだと思う」 「そうかな」 「そうだよ。清美は私よりもはるかにフルートが上手だった。フルートに人生を懸けてた。自分より下手くそな相手にもっと頑張ろうなんて言われて、よけいに落ち込んでしまったんだと思う」  香穂ちゃんは、自分のせいで親友が死んでしまったと思い、二年以上もの間苦しみ続けてきた。  その苦しみは彼女が大学生になっても、社会人になっても永遠に続くのかもしれない。   
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