命の願い

7/11

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「この事、初めて宗一郎くんに話した。秘密にしててごめん」 「話してくれて嬉しいよ」 「話すだけでも楽になるものね」  彼女は無理やり微笑んだ。  確かに、『頑張ろう』という言葉は、心が滅入っている者にはキツイ。傷口に塩を塗りたくられるようなものだ。  その気持ちはよく分かる。  けど、それと死を直結させるのは早計じゃないだろうか。  僕はその考えを彼女に伝えると、 「その場にいなかった宗一郎くんには分からないよ。清美のあの怨念の込められた瞳の恐ろしさを」  香穂ちゃんは薄い唇を噛みしめた。 「でも、その場にいなかったからこそ分かることもあると思うんだ」 「変な慰めだったらやめてほしい。これは私自身の問題だしさ」 「慰めなんかじゃないよ。香穂ちゃんが、その自殺には関係ないことを証明したいんだ」  長い沈黙が訪れた。  端末の向こうの彼女は、うつむいたまま浅い呼吸をしている。  僕は手足に痺れと発熱を感じながら、何とか口を開いた。 「そのコンクールの当日、清美さんは彼氏に車で送ってもらったんだよね」 「そうだよ。優しい彼氏さんでしょ」 「おかしいよ。それ」 「なんで? 彼女想いのいい人じゃないの」 「普通さ、遅刻しそうだったら家族の誰かに送ってもらわないかな」  香穂ちゃんの目が大きく開いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加