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「この事、初めて宗一郎くんに話した。秘密にしててごめん」
「話してくれて嬉しいよ」
「話すだけでも楽になるものね」
彼女は無理やり微笑んだ。
確かに、『頑張ろう』という言葉は、心が滅入っている者にはキツイ。傷口に塩を塗りたくられるようなものだ。
その気持ちはよく分かる。
けど、それと死を直結させるのは早計じゃないだろうか。
僕はその考えを彼女に伝えると、
「その場にいなかった宗一郎くんには分からないよ。清美のあの怨念の込められた瞳の恐ろしさを」
香穂ちゃんは薄い唇を噛みしめた。
「でも、その場にいなかったからこそ分かることもあると思うんだ」
「変な慰めだったらやめてほしい。これは私自身の問題だしさ」
「慰めなんかじゃないよ。香穂ちゃんが、その自殺には関係ないことを証明したいんだ」
長い沈黙が訪れた。
端末の向こうの彼女は、うつむいたまま浅い呼吸をしている。
僕は手足に痺れと発熱を感じながら、何とか口を開いた。
「そのコンクールの当日、清美さんは彼氏に車で送ってもらったんだよね」
「そうだよ。優しい彼氏さんでしょ」
「おかしいよ。それ」
「なんで? 彼女想いのいい人じゃないの」
「普通さ、遅刻しそうだったら家族の誰かに送ってもらわないかな」
香穂ちゃんの目が大きく開いた。
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