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「何で塾の講師の、大学生の彼氏が朝から車で会場に送ってるんだろう」
「たまたま家族がいなかったから、じゃないのかな」
「きっと、彼氏とお泊まりでもしてたんじゃないの」
「清美、そんなこと言ってなかったけど」
「親友にも言えないことはあるんじゃないかな。恋人である僕らにも秘密があったように」
僕と香穂ちゃんは画面越しに無言で見つめ合う。
「清美さんはコンクールでの演奏が終わった後の控え室で、スマートフォンを投げつけたんだよね」
「うん。乱暴にね。よほど悔しかったんだと思うな」
「でもさ、演奏がボロボロで悔しかったなら、フルートを投げるんじゃないかな」
「そうかもしれないけど・・・・・・」
「落ち込んでいるのにスマホを見ているなんて、何かおかしいよ。おそらく、開いたスマホの内容に激怒、もしくは悲しみが爆発したんだよ」
「それは宗一郎くんの推測でしょ。考えすぎだってば」
考えすぎ。
ズキンと胸が痛んだ。親に気持ち悪いとまで言われた僕の短所が、神経を痛めつける。
それでも僕は続ける。
「きっと、その内容は彼氏からのメッセージだったんじゃないかな」
「そんなのもう分からないよ」
「清美さんはその彼氏に夢中になってたんだと思う」
「いいじゃないの。恋愛なんだから」
「黒のロングヘアーをキャラメル色のショートカットにしたなんて、よっぱど好きだったんだろうね」
「彼氏の好みに合わせるなんて、付き合ってたら別に普通のことよ」
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