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人影のない裏路地をシャムは歩く。
薄暗い影に覆われたビルの壁面、寂れた小豆色のマンホール、ゴミがはみ出た生臭いポリバケツ。
どんな道だろうが猫はスイスイと軽やかに歩みを進める。
猫は自由さ。
だが、枯れ木のベンチの下を見た途端、シャムの心臓は大きく跳ねた。
––––そ、そんな。
血の気がひいて、全身がわなないた。
キャットゲートが開いたままになっている。
青い光を放つゲートはグルグルと回ったままだ。
もつれる前足を必死に動かし、ゲートへと駆け寄った。
そんなはずはない、と一度立ち止まり考えた。肉球に嫌な汗が滲みはじめる。
キャットゲートは人間界と猫界を結ぶ異空間のトンネルだ。
その管理係である、ゲートチェッカーの役職に就いているのがシャムなのだ。
––––確かに閉めたはずだ。
昨日、人間界に入り、そのあとすぐに閉門のための呪文“トジルニャア”を唱えたはずだ。
記憶の中で前足の肉球を合わせる自分が映って・・・・・・
「ちがう」
ウィスカーパッド(ひげ袋のこと)がピクンと動いた。
トジルニャアを唱える前に、焼き魚の匂いにつられて街をさまよっていた。
そのまま鈴木さん家の食卓を縁側で延々と見つめていたのだ。
そのあとは友人のコラットくんとネズミ狩りを朝まで楽しんでいたのだった。
––やらかした。
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