キャットゲート

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ゲートチェッカーのシフト表をウインドに広げ、ブチくんの勤務日にカーソルを合わせる。  『休み』のマークを『勤務』に変更する。  と、その時だった。  バタンと管理事務所のドアが開いた。  シャムは慌ててパソコンの画面を別のものにする。  中に入ってきたのは、ラグドールだった。白い毛並みは品がある。 「よ、よう。ラグドール」  胸がバクバクしていたが、平然を装った。 「やあ」  ラグドールはシャムにおかまいなしに自席に座る。 シャムは尋ねる 「あれ、キミの部署はこれから会議があるんじゃ?」  彼はワードクリエイターという役職についている。  言論を作り、取り締まり、言葉を研究する専門家だ。  猫背や猫目、猫舌などの多くの言葉を人間界へ普及した功績がある。   彼の祖父は、かの夏目漱石とも交流があったとか、ないとか。  マジメな仕事猫・・・・・・だが。  本音をいえば、シャムはラグドールが苦手だった。  つねに論理的で、くだけたところが一切ない。笑顔を見たこともなければ、冗談をいったこともない。遊び人のシャムとは真逆だった。   役職者として同期ではあるが、いつも気を遣う疲れるタイプだ。 「あんなニャアニャアしか言わない会議など、時間の無駄だ。わたしは言葉の研究をしたい」  ラグドールはシルバーフレームの眼鏡をかけると、パソコンを睨んだ。  カタカタ、カタカタとキーボードを打つ音が間断なく響く。 「ホントにキミは仕事が好きなんだな」 「仕事より楽しいものがこの世にあるのか?」  はぁ・・・・・・息がつまる。シャムは聞こえないように舌打ちした。 「ところで」  ラグドールの声が急に鋭くなった。 「シャムのほうこそ、なぜここにいるんだ。この時間はゲートチェッカーは各ゲートの見回りでは」  猛烈にお腹が痛くなった。 「ちょ、ちょっと確かめたいことがあって・・・・・・そのう」 「そうか。事情があるなら仕方ないな。まぁ、がんばってくれ」  ラグドールはひたすらキーボードをたたく。
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