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ドッグランを自由に走り回るゴローを眺めながら、縁側に腰掛けて缶コーヒーと煙草で一休み。一休みもなにも、月のほとんどをぐうたらして過ごしてるけど。
「案外うまくやってんじゃん、人間嫌いの累ちゃんは。」
「人間嫌いでも子供が嫌いだとは1度も言ったことないでしょ。」
一穂は心底驚いた顔をして、煙草の灰を落とした。灰皿に落とせ。床が汚れる。
「普通って知らんじゃん、私。」
「一般論的な意味の普通は、お前からは程遠かったな。」
「なんだろ、あの子らには、普通に楽しく青春送って欲しいだけだよ。」
「俺らも楽しかっただろうが。」
「誰とも喧嘩にすらならないって意外とつまらんもんだったよ、一穂がイカれてるだけ。」
九重の家にお世話になってる、という立場と。九重の「人間」であるという立場では。
在り方が変わってくる。私は、そうである事を強いられ、あの子らは九重という名前に守られる。東京から来た、というだけでも異質に見られるこの田舎で、あの子らを守るのはこの名前なんだって事を、私は苦しいほど知っている。
私は、畏怖されて誰も近付いてすら来なかったから。一穂だけが、私を「九重さん」ではなく「累」と呼び、ただ1人の累であることを許してくれた。
期待させたら申し訳ないが、恋愛感情はお互い1ミリもないので、どうなるとかこうだったとか語れるものはこれ以上ない。
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