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豪雪の日々もじき終わる頃、無駄に広いこの家に大量の荷物が届いた。私はというと二人分の部屋を用意し、その部屋の家具を買い揃え、事前に要と芽衣に和室洋室布団ベッドなどの希望を聞き、なるべく快適に過ごせるよう配慮した家づくりをしていた。自室以外物置かただの空き部屋だったのでさすがに無の空間には住ませられないと焦った結果、かなり楽しく作ってしまった。気に入ってくれるといいのだが。
近所に住んでいる農家の幼馴染、明山一穂を呼んで重い荷物を部屋に運んでもらう。お礼はいつも日本酒一升瓶一本。
「累、本当に大丈夫か?入学式は?スーツ持ってんの?万年引きこもりが?」
「スーツくらいあるわ。一応不動産でご飯食べてるんだから。私は引きこもりじゃなくてインドア派。でも庭には毎日出てるから実質アウトドア。」
「いや、それをアウトドアと呼べないことは馬鹿な俺でもわかる。お前さあ……その双子?高校生なんて思春期真っただ中じゃねえのか?本当に大丈夫か?色々と。」
「そうだねえ。まあ、反抗期思春期は誰しもが通る道なんだしそこはねえ。そんなの我々に比べたらねえ。」
悪いことをして痛い目をみて気付く人間もいるわけだから、私は人の人生の在り方に口を出すつもりなんて毛頭ない。ご飯食べて、ちゃんと寝て、生きていればそれでいい。留年はさすがに一応子供たちを預かる身としては避けたいことだけど。
「でもまあ、そういうやつらってさ。誰かがちゃんと道を教えてやらねえとダメなんだよな。俺らがそうだったようにさ。」
「物事の善悪の定義だって人それぞれなんだし、何が正しい道かなんて私も知らないけど。ただまあ、うん、生きていく方法は教えてあげないといけないかなとは思う。」
一穂は、そうだな、と言いながら煙草に火をつけた。
「あ、お前の煙草買ってくるの忘れた。」
「今すぐカートンで買ってこい。今すぐ。ゴー!!」
「俺はゴローじゃねえわ!」
「は?ゴローと一穂が同等の立ち位置だと思ってんの?やば……ゴロー、教えてやってよ、累の中で人間は基本的に犬以下だって。」
頭の悪い会話をしながら、双子がきたら換気扇の下だけで吸うようにしないとな、等と考えていた。我が家には換気扇と空気清浄機が完備された喫煙室があるので、受動喫煙対策はばっちりだ。突貫工事で無理言って秋のうちに完成させた部屋で、私なりの最大の配慮、正直一番お金かけた。痛くもかゆくもない出費であった。余裕。財力が勝った。
そんなこんなしているうちに、要と芽衣が我が家へ来る日になった。菜月ちゃんが連れてくるというので、普段と変わらずゴローと家でお茶を飲みながらまったり待っていたら、インターフォンが鳴った。電池が切れかけているような音だったのであとでホームセンターにいかなければ。
「ゴローは好きなところでゆっくりしてな。」
軽く体を撫でてから、のっそりと体を起こして玄関に向かった。
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