1人と1匹、一軒家の日常

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「いらっしゃい。」 「ほら、要、芽衣。累だよ。累、三年間、うちの子供をよろしくお願いします。」 「いいよ、そんな頭下げなくて。むしろこんな田舎で本当に大丈夫?コンビニまで徒歩四十分はかかるけど。」 「いい、あいつがいなくてあいつが絶対来ないくらい遠いから、ここ。だよな、芽衣。」 「うん、お母さんもここに来たらいいのに。」 「いやあ、菜月ちゃんはとりあえず一日でも早く離婚して親権とって養育費もしっかり請求しないと。菜月ちゃんは菜月ちゃんで頑張るだろうから、君たちは君たちで、ここでそれなりにやっていけばいいよ。」 そんなに堅苦しく、重苦しくならんで、と言って家の中を案内した。  まず、この家は増築に増築を重ねていて、二階が三か所あって、つまり階段も三か所にあって、多分慣れるまで本当に面倒くさい間取りだと思う。 「基本的に、台所と居間と風呂とトイレと自分の部屋だけ覚えた方がいい。この家は無駄に広いから。」 「想像してた大きい家とレベルが違う。」 「要はどんな家を想像してたの?」 「なんか、テレビに出てくるような芸能人の家みたいな。」 「あははっ、全然違うわ!」 「なんで階段全部違うところに繋がってるの?」 「知らん。私がこの家を相続した時にはもう忍者屋敷みたいになってた。これでも多少リフォームしてマシになったんだよ。」 「この家、間取りどうなってんの?」 「確か、十二部屋と物置が何部屋かと、LDK?かな。あと突貫工事で喫煙室作ったし、ゴローの部屋もある。」 「累ちゃん、こんなに大きいお家に一人で住んでて寂しくないの?」 「ゴローいるし。別に?」 ゴローって誰?と聞いてきたのは芽衣だった。あれ、言ってなかったっけ。 「え、菜月ちゃんから聞いてない?」 「言ってない、っていうか私もゴローは見たことないからさ。」 あ、そうか。最後にここに来たときは先代のジョーがいたんだ。そりゃあ知らないわ。 「多分庭にいるんじゃないかな。こっち。」 手招きして庭が一望できる縁側に連れてきたら双子ってば声をそろえて 「「庭じゃなくない!?」」 だって。庭だよ、半分ドッグランにしただけでただの庭だよ。庭師さんに手入れしてもらってる位には多分立派な庭だけど。でもこれは庭。庭じゃなきゃ何に見えてるんだよ。ジャングルかアマゾンにでも見えるか?庭だよ。 「ゴロー、おいでー。」 ワン、と大きく吠えてゴローが私の方に走ってくる。 「「「オオカミ!?!?」」」 「そんなわけないでしょ。アラスカンマラミュートって犬種の犬。ゴロー、五歳です。この家の住人なので仲良くやってね。」 ゴローは初めて見る菜月ちゃん、要、芽衣をじっくり観察してから、プイ、と顔をそむけた。威嚇しなかったので多分大丈夫。今のところゴローの中で「割とどうでもいい人間」くらいの認識だと思う。  菜月ちゃんは一泊だけして、関東の自宅に帰っていった。要も芽衣も部屋に不満はないようで、ちゃんと鍵も付けたから一人になりたい時は鍵閉めときな、と言ったらひどく安心したような顔をした。部屋の鍵って私の中では結構大事に考えていて、誰にも会いたくない時や誰とも話したくない時に必要不可欠なものだと思っている。私の部屋にも鍵がついているし、一人しかいないのに?と思うだろうけどそれでも閉じこもりたい時は鍵の存在が大きいんだ。
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