1人と1匹、一軒家の日常

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 要と芽衣が通う高校はここから車で片道40分程のところにある。1番近いコンビニより全然遠い。最寄り駅なんて全く最寄りと呼べる距離ではないので、市内に行きたい時は車を出すと伝えた。そもそも電車も二時間に一本位しか走っていない。田んぼ、畑、見渡す限り山。インターネット回線もようやっと届くようになったレベルの田舎なのに、双子はよほど、父親が憎いらしい。憎いより「とにかく気持ち悪い、嫌い、顔も見たくない」と零していたので、その負の感情がこの大自然で少しでも丸くなればいいな、と思った。憎んだ先にちゃんと自分の中で自分なりの答えを出せるなら憎めばいい。だけど憎いという感情に支配されるくらいなら、いっそそいつは死んだと思った方がいい。これはあくまでも持論なので、伝えることはないと思うが。 なんとなくだけど、この双子の中に住み着いている小さくて大きい悪魔みたいなものと、これから戦わなきゃいけないのかなと感じた。感じただけで戦うとは言っていないし、私のように全て割り切れとも言わないし、明日の朝ご飯は面倒くさいからトーストにしようなんてそんな事考えてもいないって本当に。米を研ぐのが面倒くさいなんて言わない言わない。  入学式に桜が咲くことはまずありえない極寒の地なわけだが、要と芽衣から初めて心の底から頼まれたことが、「灯油の入れ方を教えてくれ」だったのは本当に驚いた。各部屋にエアコンはつけたんだけど、寒かったらファンヒーターつけていいよと言ったら、ファンヒーターの温かさにえらく感動したらしい。わかる。私も居間の大きいストーブの前から動きたくない。ここで寝て起きていたい。わかる。火って……あったかいんだよ……。原始時代のご先祖様が見つけてくれた最高の存在、ぬくもりをありがとう。 だけど1番あったかいのはゴローだよ、ゴロー。特に冬のもっふもっふしたゴローなんてただの愛すべきいぬたんぽ。湯たんぽならぬ、ゴロたんぽ。こいつだけは譲れない。毎晩ありがとうよ、ゴロー……。
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