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「別れよ」
私の言葉に、これから元彼になる人の顔は硬直した。今まさに、口付けを交わそうと眼前にあった顔が、だ。
「え、なんで……」
なんで今?そんな言葉が続きそうだ。
私は数歩下がり、頭を下げた。
「別れてください」
「なんで……?」
その質問に、私は答えられなかった──だって、私にもわからないから──。
──あれから3日経った、日曜日。
なんにもやる気が出ない。
今まで、デートだのなんだのと詰め込まれていた予定も無くなって、そもそもやることが無い。
ただただ、天井をぼんやりと見つめる。
──3日前のことが頭をよぎる。
「なんでかなんて、わかんないよ」
まあ、あっちはもっと、わかんないだろうけど……。
──幼馴染だった。
ずっと好きだったし、成就した時はガッツポーズをして喜んだ。
でもあの日、その何年もかけて降り積もった「好き」が本当に突然、わた雪のように溶けて消えてしまったのだ。
萎えた、とかではない。
キスが嫌だったとか……は、少しあったかもしれない。
彼に限らず、キスは苦手だ。
──でもだからって、そんなことで「好き」じゃ無くなるほど、脆い関係ではない。
なんせ交際に至るまで、人間関係がそれはもう、しっちゃかめっちゃかになったのだ……。
その末に手に入れた関係を──そうだ……わたしが切ったんだ。
理由もわからないまま、身勝手に……。
「あーーー!だめだ!病む!!」
自虐が始まる。
訳がわかってる上でなら今は大歓迎だが、訳もわからず病むのは時間の無駄だ。
財布とスマホをテキトーに掴み、玄関へ走る。
気分転換だ。なにかなんでもいい。外を歩いて────
勢いよく玄関を開けると、ふぎゃっ、という情けない悲鳴が聞こえた。
改めてゆっくりと扉を開けると、そこには大学生くらいの青年が、赤くなった鼻をさすっていた。
……勢いよく扉を閉める。
「え⁉︎ちょ!」
「どちら様ですか」
青年は困惑した声でボソボソと話し出す。
「と、隣に越してきた角野ユウキといいます……。あの、ご挨拶周りをしてまして…」
なるほど。
ドアロックをかけて薄く扉を開けると、叱られた子犬のような顔をしたユウキが立っていた。
「よろしくお願いします。他に用はありますか?」
「え、いや、特には──」
ユウキの言葉を、轟音が遮った。
……私のお腹の音だ。
ユウキも気づいているのか、気まずそうに視線を逸らしている。
しばらくの間、沈黙の時間が続いた後──ユウキは言った。
「あの、よければなんですが……」
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