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「ねぇ、林くん、今日はなんでそんな必死こいた顔でマンガ描いているの?」
「今月末に提出する新人賞の締め切りがあるんですよ。だから邪魔しないで、帰ってください」
途端に三好先生の顔が輝く。
「え? 新人賞?! どこの?!」
「『コミックトリガー』のです」
「へえー! 『コミックトリガー』! すごい、見せて見せて!」
僕はネームを切っていた手を止めて、先生の顔を睨んだ。
「先生、マンガなんて読んだことないでしょ?」
「え? なんで?」
「だって、先生、どうせいい四大出て、それで、すぐに教員になって、僕の学校に新任で赴任してきたんでしょ。そんなエリートコース歩いてきたような人間がマンガなんて読むんですか? それも少年マンガなんて」
先生の顔が、むっ、と、分かりやすく不機嫌になったのを見て、僕は正直愉快になった。
「そういう言い方は、嫌いだな。私。それに私だってマンガくらい読むわよ。少年マンガだって、弟の借りて読むし」
「でも、そういう先生みたいな人種とは、どうせ僕は違うんですよ、どうせ」
「……なら、なおさら私にそのマンガを読ませてみなさいよ」
数瞬の間を置いて、机に向かう僕に、挑みかかるような先生の声が響いた。
「マンガってのは、世の中の色んな人が読むのよ? 林くんのような人だったり、私みたいな人だったり。だったら、そういう沢山の人を感動させなきゃいけないのがマンガ家でしょ? なら、そういう、自分とは違う人種でも感動させられるようなマンガが描けているか、私が確かめてあげる」
今度、むっ、としたのは僕の方だった。僕は先生を再び睨み付ける。そんな僕を見て、三好先生はふふん、と鼻を鳴らして見せた。
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