届け。

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「それともなに? 自信が無いの? そんなんじゃあ、学校休んでまで必死に描いてたって、新人賞なんか獲れやしないわ」 「……!」  僕はその言葉に突き動かされるように、机に置いてあったネームの束を鷲掴みにすると、勢いよく三好先生の顔先に突きつけた。三好先生は表情を崩さぬまま、僕からネームをひったくると、真剣な眼差しで紙を捲り始めた。僕は、三好先生のその姿をただ、じっ、と息を詰めて見つめるのみだった。  ――僕の自信作だ、渾身の一作だ。たとえ先生でも、下手な感想じゃ、許さないぞ……!  ……数分後、先生が、ふぅ、と軽く息を吐いて、ネームから目を上げた。 「すごい」  そう言いながら、三好先生は、脱力したようにその身を壁にもたれかからせた。長い黒髪が、ふわり、と壁に触れる。僕は、やった! と飛び跳ねらんばかりに心を躍らせ、得意げに先生に視線を投げた。すると、先生はぽつり、と呟いた。 「だけど、私、この終わり方は好きじゃない」 「え?」 「うん、絵はすごく良いと思うの。でもこのストーリー、主人公の男の子が好きだった女の子にフラれて、そしてその子に復讐して、ざまぁ、で、終わりってのは好きじゃない。主人公が、もっと、幸せにならないと。うーん、どういふうに、って言われると難しいけれど……」  後から思い返せば、その時の三好先生の顔は、なんだか、すごく頼りなげだったと思う。とにかく、先生はどこか遠い目で、僕にこう、途方に暮れたような口調で言ったのだ。 「……なんでもいいけど、とにかく、もっと、幸せに、ならないと」
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