届け。

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 その甲高い大きな声に圧倒されて、触れた指先の主を見てみれば、僕と同じ高校の制服を着たポニーテールの女子高生が、目を丸くしながらきゃっきゃっ、と笑っている。僕が唖然としているのを見て、やがて女子高生は笑うのを止めて、じとっ、とした目でぼくを見た。 「覚えてないの? 一年から同じクラスの高崎よ!」 「えっ。えっ……と、覚えてない」 「えーそうなの? ……まあ、一年ぶりくらいだもんねえ、仕方ないか」 「ごめん」     高崎と名乗ったクラスメイトらしき女子高生は、ポニーテールをゆっさゆっさ揺らしながら口を尖らせていたが、やがて、僕の戸惑う表情を見て、途端に、にかっ、と顔を崩し、僕に向かっていった。 「まあ安心しなよ。私がぜんぶここ一年のうちらのことくらい、教えてあげるからさあ。まずは何と言っても、大事件といえば、沢木先生と三好先生の不倫および解任事件よね! いやーあれには驚……」 「ええっ?!」  僕の素っ頓狂な声に、コンビニ中の人が目を向ける。  真っ白になった僕の頭のなかでは、その事件についてまくしたてる甲高い高崎の声と、店内に流れるコンビニのテーマソングが、奇妙な共鳴音を奏でて、ただ、響きわたっていた。
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