あの日以来の、君

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「白方さん、このカラー剤がないんですけど どれで代用すればいいでしょうか…?」 「あーえっと…それはこっちのカラー剤を混ぜて使えば大丈夫だから…」 「白方さん!予約変更のお電話です」 今日はサロン内がドタバタでとても忙しい。 あっちもこっちも呼ばれちゃうし…もうどこから見ればいいのよ… ただでさえ疲れがとれていない体なのに、今日でさらに疲労が倍増しそうだった。 なんとか頭の中で優先順位を整理し、順番に手をつけていく。 すると、店の扉が開いた。 カラン__ 「いらっしゃ… たまたま近くにいた私は、その姿を見て言葉が詰まった。 「久しぶり、白方さん」 落ち着きがある低い声を響かせ、私の名前を呼んだのは、あの日以来の山崎君だった。 細身で高身長、小顔、程よく筋肉がついている腕。長い前髪から覗く目は妖艶さが漂っていた。 「…いらっしゃいませ」 「し、しばらく掛けてお待ち下さい」 彼をみた途端に会話がぎこちなくなってしまう 。 うわぁ…なんでこんなにぎこちなくなっちゃうんだろう。 自然体でいたいのに…これじゃあまるであの日のことをずっと意識してるみたいじゃん… いやいや、もう絶対ないから。全く考えてないから。大丈夫、大丈夫。 私は今一度深呼吸をし、心を落ち着かせる。 そしてまだカットが残っているお客様の元へ向かい、最後仕上げに取り掛かった。 チョキチョキチョキ… ハサミを動かす手を時々止める。 なんか、すごい見られてる気がするんだけど 早く山崎君のカットを終わらせたいけど…
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