忘れかけの記憶

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「白方さん、カット上手いですよね」 「嬉しい〜ありがとうございます」 この仕事を続けて早6年。 自分のカットで、お客さんが喜んでくれることに大きなやりがいを感じることが長く続く秘訣なのかもしれない。 慣れた手つきで素早くカットしている時が一番かっこいいかも…と私はこっそり思っている。 チョキチョキチョキチョキ… サッサッサッ 特に交わす事もなく、カットは進んでいった。 ふと、お客さんが見ている雑誌に目をやると、そこに記載されていたのは、大々的な結婚特集だった。 "旦那と仲良く居続ける秘訣とは" "幸せな結婚を手に入れるためにできること!" 旦那と幸せに居続ける秘訣か… 今の私には分からなかった。 「白方さんは、旦那さんのどこが好きなの?」 「え?」 ここでいきなり飛んできた、お客さんからの質問。 いや、唐突〜〜 「んーと、そうだなぁ〜」 どこが好きかって… むずっっ 「信頼できて、私のことを大きく包み込んでくれるところ…かな?」 「そうなんだ〜!なんか、お父さん褒めてるみたいですけど(笑)」 旦那の好きなところをまともに答えられず、お客さんは微笑した。 「いいですね、結婚って」 お客さんはそう言い、引き続き雑誌を読み始めた。 「そう、ね」 結婚って、何年も仲良くお互い幸せで居続けるのが理想だと私は思っている。 でも、今の私達の関係は理想には程遠い。 昔は幸せだったのに。今は…… その穴は、これからも埋まることはないんだと思う。 心のどこかで、本当は寂しい思いをしているし。 その寂しさの溝がどんどん深くなって、しまいにはそれを埋めるために触れてはいけないことに手を出したことだってある。 今の一番の幸せはなんだだろうか。 私は心の中でモヤモヤしていた。 深く包み込むような霧がかかったみたいに。
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