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「私の仕事はこれからです、バルバロ翁。街の方が話してくれたことを、バルバロ翁が作ってくださった料理を、記して次の街へ持っていくのが私の仕事です。この灰降る街、ミガルドの有り様を」
インク壺にペンを漬けて一息つくと、猛烈な勢いで字を書き始めました。
一気に頁の4分の1ほどを埋めて、文字がかすれてきたら再びインク壺にペンを浸します。
ズズがペンを走らせると、いつの間にか近くの椅子に腰掛けるバルバロがそれでしたら、と声をかけました。
「あたくしの話も、記していただけますか」
バルバロの目をじっと見つめたズズは、やがて新しい頁を開いてペンを構えました。
さっきまでどこかに行っていたエスメラルダの金色の瞳が、薄暗がりの中できらりと光って、ぽつぽつと語り始めるバルバロの姿を見つめていました。
❖
ここ統星亭は、あたくしとエマの二人でやっておりましてな、今日みたいに街の衆やズズ様のような旅の方に使っていただいとります。
今日みたいに店に入り切らんほど客が来たのは、久しぶりですじゃ。やっぱり記し手様は皆興味が湧いて仕方がなかったようですな。
そういえば、先ほどエマのことを孫とおっしゃられましたな。
あれはあたくしの妻でございますよ。
いえ、別にこの街の慣習じゃありやしません。
ええ、あたくしが望んで年離れた娘と番になったわけでもなく。
もっと単純な話でございますよ。
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