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そうしたら、女はあたくしを見て、こう言いました。
「何って、魔法をかけたんだけど。無惨に費やされた時間が降る、時逆巻く灰の魔法を」
灰に触れてはいけないよ。
積み重ねてきた人生を、失ってしまうからね。
そう言うて、女は消えたですよ。
それからここは灰が降る街になっとるわけですじゃ。
不思議そうなお顔をされとりますな。
どうしてこの街を出ていかなんだ、逃げ出したらええと思っておいでで。いや、爺の勘繰りでしたかな。
灰が降り始めてすぐ、半分ばかりですかなぁ、街を出ていきました。
残っとる者は街への愛着と、あとは、あの女の言葉を信じてしもうたのかもしれませんな。
街に灰が降り出してから、エマが患いました。
咳が増えて、血を吐くときもあったのですじゃ。医療の心得のあるもんに見せてもとんと治らない。とうとう床から起き上がれなくなって、万策尽きたのですじゃ。
そのとき、心のどこかに押し込めておいた、ある思いが湧き上がってきましたのじゃ。
あたくしは、
あたくしは、エマがすっかり寝ちまったのを見て、寝床ごと、外へ押し出しましたのじゃ。
エマの患いはあの灰のせいだったかもしれん。ですが、あの女が言ったことがそうであれば、あるいは、と。
あたくしは、妻を灰降り積もる街へ押し出して、てめえは恐ろしくなって店の中で震えていたんですじゃ。
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